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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田 ソラ


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第288話 試験開始

 北部森林地帯。ウロボロスが帰った翌日。


 リオンとアレリーナは焚き火を挟んで向かい合っていた。二人とも真剣な顔である。珍しく、本当に珍しく、真面目な話し合いだった。


「つまり」リオンが腕を組む。「今後も龍族が来る可能性がある」


「ある。父の話ではかなり高い確率で来る」アレリーナが頷く。


「面倒だな」「非常に面倒だ」二人の意見は一致していた。


 近くではアレンが眠っている。その隣でリゼとルナが子守りをし、ゼオンとリオナも精霊たちと遊んでいた。平和な光景だ。しかし、話し合いの内容は平和ではなかった。


「カミリアだが」アレリーナが口を開く。


「本人は悪意があるわけではない」


「まぁな」リオンも認める。婚約宣言は意味不明だったが、別に敵意はなかった。ただ龍族の価値観がおかしいだけである。


「しかし」アレリーナの目が細くなる。「我の息子に近付くなら話は別だ」


「そこは同意する」


 父親として、母親として。二人とも同じ意見だった。


 しばらく考えた後、リオンが呟く。「試験するか」


「試験?」アレリーナが眉を上げる。


「本気でアレンの将来を考えてるなら、それなりの覚悟があるはずだ」リオンはニヤリと笑った。


「なるほど」アレリーナも理解した。


 数秒後、二人は同時に頷く。


「ブチのめそう」「ブチのめそう」


 完全一致だった。


 その瞬間、後ろから冷たい視線を感じる。二人が振り返るとリゼとルナがいた。ものすごく嫌そうな顔をしている。


「……」「……」


 無言だった。その無言が怖い。


「な、なんだ?」リオンが恐る恐る聞く。


 リゼが微笑む。優しい笑顔だった。しかし目が笑っていない。「話を聞いていました」


「はい」


「またですか?」


「またとは」


「問題を暴力で解決しようとしている件です」


 ぐうの音も出なかった。


「聖龍の時もそうだったのですよね」


「うっ」


 リオンは死んだ目になった。アレリーナは視線を逸らした。自分も被害者だったので強く出られない。


「普通に話し合えばいいでしょう」リゼが深くため息をつく。


「龍族だぞ?話し合いより殴り合いの方が早い」アレリーナが言う。


「だから駄目なんです」正論だった。


「第一」ルナも頷く。「アレン本人は何も言えません」


 その言葉に場が静かになる。確かにその通りだった。


 当のアレンは現在。「すぅ……すぅ……」熟睡中である。婚約問題など知る由もない。


「まぁそれはそうだな」リオンは頭を掻いた。


「ですよね?」ルナが頷く。


 しかし、アレリーナは腕を組んだ。「だが試験は必要だ」


「まだ言いますか」リゼが頭を抱える。


「我の息子に近付く者だぞ。強くなければ困る」


「基準がおかしいです」ルナが即答する。


 するとアレリーナは当然のように言った。「少なくとも私とリオンに勝てるくらいでないとな」


 リゼとルナが同時に固まった。「「待ってそれ無理じゃないですか?」」二人の意見は完全に一致していた。


 なにしろリオンはこの世界でも屈指の問題児、アレリーナは神話級存在。その二人に勝てと言われても無茶である。


 しかし、当人たちは真面目だった。


「うむ」「当然だな」


 完全に親馬鹿だった。


「ゼオンの時より酷いですね……」リゼは遠い目をする。 


「間違い無いです……」ルナも頷いた。


 その時、アレンが寝返りを打った。「んにゅ……」


 全員が見る。アレリーナが即座に抱き上げた。「可愛い」さっきまでの威厳は消えていた。


「お前、本当に変わったな」リオンも苦笑する。


「当然だ」アレリーナはアレンを見ながら微笑んだ。「母親だからな」


 その顔は、かつて北部山岳で暴れていた聖龍とは別人のようだった。


 そしてその頃、遠い空の向こうでは、何も知らない赤龍カミリアが盛大なくしゃみをしていた。「……?」


 自分が近いうちに試験という名の理不尽に巻き込まれることなど、まだ知る由もなかった。




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