第287話 古竜の家族事情
古竜ウロボロスは帰らなかった。
一日、二日、三日。そして一週間。
「なんでまだいるんだ……」リオンは思わず呟いた。
北部森林地帯の広場では、ウロボロスがアレンを膝に乗せていた。「ふむふむ」完全に孫を甘やかす祖父だった。アレンも嫌がる様子はない。「きゃー♪」上機嫌である。
「父上が孫好きなのは知っていたが……」
アレリーナは腕を組みながら見守っていた。
「予想以上だな」リオンも同意した。
「可愛いから仕方ない」ウロボロスはアレンの頭を撫でながら満足そうに頷く。
「威厳は?」
「孫の前では不要だ」即答だった。
リオンは遠い目をした。神話級存在は皆こんなのなのだろうか。
その日の夕方、リオンはウロボロスと焚き火を囲んでいた。アレンはアレリーナに抱かれて眠っている。
「そういえば」リオンが口を開く。「龍族ってそんなに婚約とか気にするのか?」
「理由がある」ウロボロスが頷いた。
「龍人族は子供が出来にくい」
「そうなのか」リオンは少し驚いた。
「数百年に一度だ」
「は?」思わず聞き返した。
数百年。人間なら世代どころか歴史が変わる。
「龍族は長命だ。その代わり子供は滅多に生まれぬ。だから新しい命は非常に重要だ」ウロボロスは淡々と続ける。
リオンは納得した。だからアレンが注目されるのか。黒龍へ変身できる子供、しかも龍族と人間の血を引いている。珍しさの塊だった。
「だからカミリアはまだ良い方だ」ウロボロスがさらに続ける。
「良い方?」
「うむ。他はもっと酷い」
「どれくらい?」
「突然、来る」
「嫌だな」
「勝手に婚約宣言する」
「嫌だな」
「子供の名前まで決めている」
「帰れ」リオンは真顔になった。
「だからカミリアは比較的まともだ」ウロボロスが大きく笑う。
「比較対象がおかしい」
「否定できぬのが腹立つ」アレリーナも深く頷いていた。
その後、話はなぜか別方向へ飛んだ。
「ちなみにワシにも嫁が沢山いる」ウロボロスが胸を張る。
「聞きたくなかった情報だな」リオンが嫌そうな顔になる。
「何人ですか?」アレリーナが聞く。
「覚えておらん」
「最低だな」夫婦、揃って呆れていた。
「長く生きているとな」ウロボロスは気にしない。
「便利な言い訳だな」リオンは呟いた。
その時だった。周囲を飛んでいた精霊たちが反応した。
『沢山のお嫁さんー』
『リオンもー』
『いっぱいー』
「ん?」リオンが固まる。
『リオンもー』
『リゼー』
『ルナー』
『アレリーナー』
『あと増えるかもー』
「やめろ」即答だった。
精霊たちは楽しそうに飛び回る。
『増えるー?』
『増えるー?』
「増えない」
『本当ー?』
「本当だ」
すると、アレリーナがじーっと見てきた。リオンは嫌な予感がした。
「なんだ」
「いや」アレリーナは視線を逸らす。「父上の話を聞いていると……龍族基準では、貴様も大概だなと思ってな」
リオンは反論しようとした。しかし、リゼ、ルナ、アレリーナ。三人の顔が脳裏をよぎる。
「……」
沈黙。
『リオンもー!!』
『同じー!!』
『いっぱいー!!』
精霊たちが一斉に叫んだ。
「うるせぇ!!」
北部森林地帯に、リオンの悲鳴が響き渡った。
その横でウロボロスは大笑いしていた。
「はっはっはっはっ!」
「笑い事じゃねぇ!!」
しかし、古竜は楽しそうだった。久しぶりにできた孫、賑やかな家族、そして騒がしい神の子の王。ウロボロスにとってその一週間は、思った以上に悪くない時間だった。




