第285話 婚約者を名乗る赤龍
北部森林地帯。
アレンの大暴走飛行事件から数日。久しぶりに平穏な時間が流れていた。
アレリーナは木陰でアレンを抱いている。「ふふ……」完全に母親だった。神話級存在の威厳などどこにもない。アレンの頬をつついては幸せそうに笑っている。
「可愛いなぁ……」
「最近それしか言ってなくないか?」リオンが苦笑する。
「うるさい」即答だった。「我の息子だぞ」
「知ってる」
近くではゼオンとリオナが精霊たちと遊んでいた。ラミも相変わらず元気だ。
「今日は平和だなー」
「その台詞やめろ」ガルヴァンがいないのでリオンがツッコミをした。
その時だった。空が赤く染まる。
ゴォォォォォ!!
巨大な影。森の上空を赤い龍が旋回していた。
精霊たちがざわつく。
『龍だー』
『赤いー』
『知らない龍ー』
「……誰だ?」リオンが眉をひそめる。
「赤龍……?」アレリーナも表情を変えた。
次の瞬間、赤い巨体が広場へ降り立つ。
ズゥゥゥン!!
地面が揺れた。巨大な赤龍。燃えるような鱗、黄金の瞳、そしてやたら自信満々な顔。
『よう』
「誰だお前」リオンが即座に聞いた。
赤龍は鼻を鳴らす。『我は炎龍族の姫。名をカミリアという』
「それで?」
『迎えに来た』
沈黙。全員が首を傾げた。
「何の話だ」アレリーナが警戒する。
するとカミリアは当然のように言った。
『アレンのことだ』
「は?」
リオンが固まる。アレリーナも固まる。カミリアはアレンを見下ろしながら頷いた。
『うむ。将来の婚約者として申し分ない』
静寂。風の音だけが響く。
「…………」「…………」
リオンとアレリーナの顔から表情が消えた。数秒後。
「はぁ?」「はぁ?」
二人同時だった。
カミリアは気にしない。『黒龍へ変化する龍族の子。しかも、父は神に愛される神の子、母は聖龍。最高ではないか』
「待て」アレリーナの額に青筋が浮かぶ。
『何だ』
「アレンはまだ赤ん坊だ」
『問題ない』
「大問題だ!!」珍しくアレリーナが本気で怒鳴った。
「生後数カ月だぞ!?」リオンも同意する。
『龍族では珍しくない』
「知らねぇよ龍族文化!!」リオンがキレる。
『むしろ遅い方だ』カミリアは堂々としていた。
「遅くねぇ!!」リオンが即ツッコミする。
アレリーナはアレンを抱き寄せた。「駄目だ」
『何故だ』
「私が許さん」
『過保護だな』
「当たり前だ!!」
その瞬間、アレンがきゃっきゃっと笑った。場違いなほど楽しそうだ。
『可愛いな』カミリアが目を細める。
「見るな」アレリーナが即座に隠した。
『将来有望だ』
「見るなと言った!!」完全に母親だった。
「だいたい本人の意思はどうすんだ」リオンも腕を組む。
『大きくなってから決めれば良い』
「だったら今決める必要ないだろ!」リオンは正論かます。。
しかし、カミリアは真顔で言う。『先約は重要だ』
「重要じゃねぇよ!!」リオンは怒鳴る。
精霊たちが面白そうに飛び回る。
『修羅場?』
『修羅場だー』
『龍同士だー』
リオンは頭を抱えた。アレリーナは本気で睨んでいる。
しばらくして、カミリアは大きくため息をついた。『……仕方ない』
二人が少し警戒を解く。しかし、次の言葉で再び固まった。
『では定期的に会いに来る』
「来るな!!」「来るな!!」
再び二人同時だった。
アレンは何も知らずに笑っていた。「きゃー♪」
リオンは確信した。
また面倒事が増えた事を。




