第284話 帰ってきなさい
黒龍アレンは空を駆けていた。
漆黒の翼が広がるたび、暴風が森林を揺らす。雲を突き抜ける勢いで飛び回り、その背中では。
「うぉぉぉぉぉ!!」ラミが大興奮していた。ゼオンも楽しそうに笑い、リオナはきゃっきゃとはしゃいでいる。完全に遊園地状態だ。
しかし、地上側は真逆だった。
「アレンー!!」リオンが両手を振る。「帰ってこーい!!」
黒龍アレンはちらりと地上を見た。『グルル?』しかし止まらない。むしろ嬉しそうに旋回した。
「なんでテンション上がってんだよ!?」
リオンは頭を抱える。
隣ではリゼが珍しく焦っていた。「ゼオン!!危ないですから戻ってきなさい!!」普段穏やかな彼女にしてはかなり大きな声だった。しかしゼオンは楽しそうに手を振るだけ。「きゃー!」
「笑ってる場合じゃありません!」
「リオナァ!!落ちないで!!」ルナも青ざめている。しかし、リオナは黒龍の背中へぺたーっと張り付きながらご機嫌だった。フェンリル化するだけあって妙に安定感がある。
問題はラミだった。「もっと飛べるよー!!」
「煽るなァァ!!」リオンが絶叫する。
アレリーナは完全に母親モードだった。
「アレン!!戻れ!!危ないだろう!!」
黒龍アレンは空中で一回転した。
ゴォォォォ!!
「きゃあああああ!?」アレリーナが悲鳴を上げる。「な、何をしているのだ馬鹿者ォ!!」
「お前まだ生後数カ月だろォ!?」リオンは空を見上げながら叫ぶ。
『グルルル!!』完全に楽しんでいた。
「……普通、生後数カ月って寝返り覚える時期だよな?」ガルヴァンは遠い目をする。
「共和国基準で考えるな」リオンは真顔だった。
その時、黒龍アレンが急降下を始めた。一直線だ。
「うぉぉぉぉぉ!!」ラミは大歓声。地上側は悲鳴。
「危なァァァァい!!」
リゼが思わず目を閉じ、ルナも身構えた。
しかし、地面へ激突する寸前。バサァァァッ!!
黒龍アレンは器用に急停止。暴風だけを撒き散らしながら、地上すれすれを滑空した。
「きゃはははは!!」ラミだけ大爆笑。
リオンは膝から崩れ落ちた。「寿命縮む……」
アレリーナもへたり込む。「む、無茶苦茶だ……」
精霊たちだけは大喜びだった。
『すごーい!!』
『速いー!!』
『黒龍かっこいいー!!』
「止めろ精霊共!!煽るな!!」
その時だった。黒龍アレンが空中でぴたりと止まる。
『……グル?』
何かに気付いたようだった。そしてゆっくり地上へ降り始める。
「……お?」リオンたちが固まる。
黒龍アレンはそのまま森の広場へ着地した。
ズゥゥゥン!!
風が吹き荒れる。ラミがぴょんっと飛び降りた。「楽しかったー!!」
「こっちは全然楽しくねぇよ!!」リオンが即ツッコミする。続いてゼオンとリオナも降りてくる。全員無事だった。
「アレン!!」アレリーナが涙目で駆け寄る。
次の瞬間、黒い光。巨大な黒龍は再び小さな赤ん坊へ戻った。
「きゃう?」
そこにいたのは、普通の黒髪赤ちゃんアレンだった。
「よ、良かったぁぁぁ……」アレリーナは勢いよく抱き締め、完全に泣いていた。アレンはきょとんとしている。
「……マジで焦った」リオンも深く息を吐く。
「そのうち共和国、普通にドラゴンが飛ぶ国になりそうだな……」ガルヴァンが空を見上げた。
「もうなってる気がする……」リオンは疲れ切った顔で呟いた。




