第279話 北部森林地帯
「と、とにかく落ち着け!!」
リオンは暴れそうになる聖龍を必死に宥めていた。王城前では兵士たちが完全に困惑している。
「え、あれ聖龍様ですよね?」
「お腹大きくない?」
「見ちゃ駄目だ!!」
現場はカオスだった。聖龍は銀髪を振り乱しながら叫ぶ。
「落ち着けるかァ!!我は龍族だぞ!?神級存在だぞ!?なぜこんな……!!」
「いや俺に言われても」
「貴様以外誰に言うのだ!!」
完全に理不尽だった。しかしリゼは冷静だった。
「このまま王都に居るのはまずいですね」
「ですね」ルナも周囲を見回す。既に住民たちが遠巻きにざわついていた。「そのうち"聖龍懐妊"とか噂になりますね」
「絶対なる」ガルヴァンが断言する。「しかも数日で大陸中に広がる」
「もう十分広まりそうな事件ばかりなんですが……」フィーナは頭を抱えていた。
その時、ふわりと光が舞う。精霊たちだった。小さな光球たちが聖龍の周囲をくるくる回る。
『龍の赤ちゃん』
『すごい』
『強そう』
「やめろぉぉぉ!!」聖龍は本気で羞恥に震えていた。
「……北部行くか」リオンは顎に手を当てる。
「北部?」
「あそこなら禁足地だし、人目も少ない」
精霊たちの森。ゼオンの祭壇が存在する、共和国でも最重要級の聖域だ。
「確かに、あそこなら落ち着けますね」リゼが頷く。
「精霊達も協力するだろ」ルナも賛成した。
「だ、大丈夫なのか……?」聖龍は不安そうに周囲を見る。
「王都に置いとくよりマシだ」
「それはそうだが……」
「門、開けるか?」リオンは精霊たちを見た。
『できるー』
『まかせてー』
次の瞬間、空間が淡く歪む。巨大な精霊門が展開された。白銀に輝く転移ゲート。その向こうには深い森林が広がっている。
「……空間転移だと?」聖龍が目を見開いた。
「精霊製だ」
「精霊共、相変わらず好き勝手しおるな……」
「お前も十分好き勝手側だろ」ガルヴァンがため息をつく。
「うるさい」聖龍はぼやく。
「ほら、行くぞ」リオンは聖龍へ手を向けた。
「……むぅ」聖龍は少し迷った後、観念したように歩き出す。しかし途中で足を止めた。
「……リオン」
「ん?」
「貴様も来い」
「なんで?」
「不安だからだ」
「子供かよ」
「貴様の子の可能性が高いのだから当然であろう!!」
ガルヴァンが吹いた。フィーナは顔を真っ赤にする。
「……分かったよ」リオンは頭を掻いた。
リオン、リゼ、ルナ、聖龍、ガルヴァン、フィーナの六人は精霊門を通過する。光が視界を包み。次の瞬間、空気が変わった。
深い森、澄んだ空気、巨大な樹木、そして無数の精霊たち。
『おかえりー』
『龍だー』
『お腹おおきい』
「言うなァァァ!!」
聖龍の絶叫が森へ響いた。
その光景を見ながら、ガルヴァンは遠い目をした。「……もう共和国の北部、神話の隔離施設みたいになってねぇか?」
「今さらですね……」フィーナは静かに頷いた。




