第277話 龍族の常識
翌朝。宴会場は妙な空気に包まれていた。
ドワーフたちは二日酔いで転がり、自衛隊員たちは「見なかったことにしよう」という顔をしている。
ガルヴァンは朝から胃薬を飲んでいた。「……俺、なんでこんな人生になったんだろうな」
「俺も知りたい」リオンは死んだ目で答える。昨夜のダメージがまだ抜けていない。歩き方まで若干おかしかった。
フィーナは顔を真っ赤にしたまま目を合わせてくれない。「お、おはようございます……」
「……はい」
「き、昨日は大変でしたね……」
「忘れてくれ」切実だった。
そんな中、小屋の扉が開いた。聖龍だった。銀髪を揺らしながら、普段通りの澄ました顔で出てくる。完全復活している。対してリオンはボロボロだ。
「なんで被害者側みたいな顔してんだあの龍」ガルヴァンが小声で呟く。
「実際、尻撃たれてますから……」ルナが納得していた。
聖龍はリオンを見る。「ふむ」
「……何だよ」
「多少は反省したか?」
「した」
「よろしい」妙に満足そうだった。
そして踵を返す。「では帰る」
「帰るのかよ!?」
「我も暇ではない」聖龍は当然のように言った。
その時、リゼがふと口を開いた。「……あの」
聖龍が振り返る。「何だ、エルフ」
リゼは穏やかに微笑んでいた。「龍族は、子供が出来にくい種族なのですか?」
一瞬、空気が止まった。
「おい待て」リオンが嫌な顔をする。
「いや、そこ説明しとかないと駄目です」
ルナも口元を押さえながら言う。
「だから何を!?」リオンはもっと嫌な顔をする。
聖龍は眉をひそめた。「……何の話だ?」
「リオンの子供についてです」リゼは優雅に紅茶を口へ運んだ。
「ぶふっ」ガルヴァンが吹く。フィーナが固まる。
聖龍は数秒停止した後、鼻で笑った。「何を馬鹿な」
「いや結構な確率で……」
「ありえぬ」即答だった。「我を誰だと思っている。聖龍だぞ。神に近い存在だぞ」
「知ってます」
「その程度で子など出来ぬ」
自信満々だった。しかし、リゼとルナは顔を見合わせ、同時に呟く。
「あー……」
「これは駄目なやつです」
「何だその反応は」
「いや、リオンの子供って普通じゃ無いですから」ルナが肩を竦めた。「ゼオンを見ましたか?リオナもいますが……」
聖龍の表情がわずかに引きつる。ゼオンは神に近い子。リオナは神獣フェンリル化する赤子。確かに普通ではない。しかし聖龍は咳払いした。
「ふん。だとしても我には関係ない」
「いや多分あります」
「ない」
「……一応、可能性は考えた方が」リゼも困った顔になる。
「ないと言っておる」完全拒否だった。
そのまま聖龍は白銀の光に包まれる。龍化。巨大な翼が広がった。
『ではな、リオン』
「お、おう」
『次に会う時は尻を狙うな』
「まだ言うのかよ!?」
『当然だ!!』
そして聖龍は空高く飛び去っていった。
しばらくの静寂。やがてガルヴァンがぽつりと呟く。「……絶対あとで面倒なことになるな」
「なりますね」ルナも頷く。
「楽しみですね」リゼは優雅にピキリながら微笑んだ。
「何が!?」リオンだけが青ざめていた。




