第270話 空中追撃戦
『貴様らァァァァァァァ!!』
白銀の巨体が、空を裂きながら迫ってくる。山々を飛び越える速度は、もはや災害そのものだった。
輸送ヘリの内部に緊張が走る。操縦士が青ざめた顔で叫んだ。
「は、速いです!!追いつかれます!!」
「マジかよ」
リオンは窓から身を乗り出した。聖龍は完全にブチ切れていた。黄金の瞳には理性がない。
『貴様ァァ!!絶対に許さぬぞリオン!!』
「いや、お前も結構やってたろ!?」
『それとこれとは別だァァ!!』
口を開く。白銀の魔力が収束していく。
フィーナの顔色が変わった。「あ、あれブレスです!!」
「撃て!!」リオンが即断した。
兵士たちが一斉に動く。「ロケットランチャー構え!!」ヘリ後部ハッチが開く。轟音と暴風。その中で兵士が照準を合わせた。
「発射!!」
ボシュゥゥゥ!!
ロケット弾が一直線に飛ぶ。聖龍が咄嗟に回避しようとしたが――
ドゴォォン!!
『グォォッ!?』
右翼付近で爆発。白銀の鱗が吹き飛んだ。
「効いてるぞ!!追撃しろ!!」
「対物狙撃銃用意!!」別の兵士が叫ぶ。
リオン自身がスナイパーライフルを受け取った。ガルヴァンが引きつった顔をする。
「お前、ヘリの中で撃つ気か!?」
「今さらだろ」
「今さらで済ませるな!!」
リオンは銃身を窓から突き出した。風圧で髪が乱れる。スコープの先に、怒り狂った聖龍の顔が映る。
『リオォォォォン!!』
「うるせぇ!!」
パンッ!!
轟音。弾頭が空を裂く。一瞬。
バギィッ!!
『ガァァァァァァ!?』
聖龍の肩口が爆ぜた。巨体が大きく揺れる。しかしそれでも飛行を続けた。
「硬ぇな……!」
「神話級存在ですから!!」フィーナはもう涙目だった。
しかし、兵士たちは完全に戦争モードへ入っていた。
「第二ロケット弾、装填!!」「撃て撃てぇ!!」
ボシュゥ!!ドゴォォォン!!
爆炎。さらに。
パンッ!!ドゴン!!
対物ライフルの弾が次々と炸裂し、白銀の鱗が空中へ飛び散った。
『グ、ォ……!!』
ついに飛行が乱れる。巨体が傾いた。それでも聖龍はなおリオンを睨んでいた。
『リ……オン……!!』
「なんだよ!!」
『覚えて……おれェェェェェ!!』
そのまま白銀の巨体は回転しながら落下し、山の向こうへ消えていく。数秒後。
ドゴォォォォォン!!
遥か下方で巨大な爆発が起きた。衝撃波が空まで届き、ヘリが揺れた。
しばしの静寂。
「……勝った?」
「勝ちましたね」
「生きてるよな、あれ?」
「多分な」
次の瞬間、ヘリ内部が歓声に包まれた。
「やったァァ!!」
「共和国軍勝利!!」
「神話級存在撃退だァ!!」
兵士たちが拳を突き上げる。リオンも満足げに頷いた。「よし。帰ったら飯だ。めちゃくちゃ疲れたわ……」
ガルヴァンは座席へ崩れ落ちた。
その隣で、フィーナだけが顔面蒼白だった。「へ、ヘリオス様ぁ……」ぽろぽろと涙を零し始める。「私、何を見せられてるんですかぁ……」
「戦い?」
「神話級存在を撃墜する戦いなんて嫌です!!」とうとう泣き出した。「聖女辞めたいです!!」
しかし誰も慰めなかった。なぜなら全員、疲れ切っていたからである。




