第269話 置いていかれる聖龍
「採血完了しましたぁ!!」
兵士の叫びが山岳地帯へ響いた。特殊な魔導容器の中では、白銀に輝く液体がゆっくり揺れている。
フィーナが目を丸くした。「ほ、本当に採れました……」
ガルヴァンも信じられない顔をしている。「神話級存在の血液採取成功とか、意味分かんねぇ……」
一方。
「ぬぐぐぐぐ……!!」
聖龍は家の下敷きのまま唸っていた。日本住宅が完全にボディプレス状態になっている。
「貴様ら……我を……何だと思っている……」
「ドラゴン」
「扱いが雑すぎるわァ!!」
リオンは満足そうに頷いた。「よし、目的達成。撤収!」
「待てぇ!!」
しかし、誰も止まらない。兵士達は手慣れた様子で迫撃砲を回収し始め、血液を厳重保管ケースへ収納していく。
フィーナまで荷物整理を始めた。「え、ええと……龍族への外交問題になりませんよね……?」
「今さらだろ」
「今さらですね……」
ガルヴァンはもう諦めていた。
その間も聖龍は必死に家を持ち上げようとしている。「ぬぅぅぅぅ……!!」
だが微妙に動かない。マンションタイプの家は意外と重い。
「おい!! せめて重りを外していけ!!」
「暴れそうだから嫌だ」
「暴れぬ!!」
「さっき暴れてただろ」
「貴様らが煽ったからだ!!」
完全に子供の喧嘩だった。やがて上空からヘリのローター音が響く。
ババババババ!!
輸送ヘリが着陸した。リオンは満足そうに頷く。「よし、乗れ乗れー」
「雑な遠征だったな……」
ガルヴァンは疲れ切った顔でヘリへ向かう。
フィーナは最後まで聖龍を気にしていた。「あ、あの……本当に置いていくんですか?」
「ちょっと頭冷やした方がいいだろ」
「貴様が言うなァァァ!!」
聖龍の怒声が山へ反響する。だがリオン達は気にしない。全員がヘリへ乗り込んだ。ローターが回転を始める。
バババババ!!
「待て!! 本当に待て!!」
聖龍が焦り始めた。
「我をこのまま放置する気か!?」
「大丈夫だ。死なないだろ」
「問題は尊厳だァ!!」
リオンは窓から顔を出した。「じゃあなー」
「軽い!!」
ヘリはゆっくり浮上する。
聖龍の絶叫が遠ざかっていった。
「戻って来ォォォォい!!」
それから数十分後。かなり距離を取った上空。山岳地帯が小さく見える場所まで移動したところで、リオンは満足げに頷いた。
「よし。この辺でいいか」
そして、片手を上げる。
「《家移転》解除」
空間が揺らぐ。
日本のマンションタイプの家が一瞬で消失した。
ガルヴァンが呆れ顔で言った。「毎回思うけど、そのスキル色々おかしいよな」
「便利だからヨシ!」リオンは爽やかな笑顔だった。
「上手くいったな」
「何がだよ」
「ドラゴンの血ゲット。共和国の被害ゼロ。外交も多分セーフ」
「最後が全然セーフじゃねぇ」
フィーナは青ざめていた。「絶対あとで怒られますよ……」
その時だった。操縦士が震えた声を漏らす。
「……陛下」
「ん?」
「後ろです」
全員が振り返る。そして、固まった。遥か後方。山を飛び越えながら、凄まじい速度で白銀の何かが接近していた。空気が爆ぜる。雲が裂ける。
巨大な白銀の龍が、目を真っ赤にして飛んできていた。
『貴様らァァァァァァァ!!!!』
「うわ、来た」リオンが素で言った。
聖龍の額には青筋が浮かんでいた。
『置いていくなと言っただろうがァァァ!!』
「根に持ってる!?」言葉がわかるリオンは一人でツッコミのであった。




