第268話 最終手段《家移転》
ドゴォォン!!
聖龍の拳が岩壁を砕く。リオンは地面を滑るように回避しながら拳銃を連射した。
パンッ! パンッ!
「しつこいぞ貴様ァ!!」
「そっちこそ硬ぇんだよ!!」
人化してなお、聖龍は異常な強さだった。拳圧だけで地面が割れ、周囲の木々が吹き飛ぶ。普通の人間なら一撃で消し飛ぶ。しかしリオンも引かなかった。むしろ楽しそうですらある。
フィーナは半泣きだった。「なんで殴り合いながら仲良くなり始めてるんですかぁ!?」
「知らん!!」
「知らぬ!!」
また同時だった。
「お前らいい加減にしろォォォ!!」
ガルヴァンの怒号が山に響く。二人が同時にそちらを向いた。ガルヴァンは青筋を浮かべていた。
「共和国の王と神話級存在が、小学生みてぇな喧嘩してんじゃねぇ!!」
「先に殴ったのはこいつ――」
「先に失礼だったのは貴様――」
「どっちも悪い!!」
完全論破だった。リオンと聖龍が口を閉じる。
ガルヴァンは肩で息をしながら剣を抜いた。「もう俺もやる」
「は?」
「止める側を諦めた」
「駄目です!!ツッコミ役が消えたら終わりです!!」フィーナが絶望した。
「終わってるから今こうなってんだよ」ガルヴァンは真顔だった。
「正論が重い!?」
次の瞬間、ガルヴァンが地面を蹴った。
ガギィン!!
聖龍の拳と剣が正面衝突する。
「ほぉ?」
「共和国宰相兼大将軍を舐めんなよ化け物」
さらに後方からリオンが射撃。
パンッ!!
聖龍が咄嗟に身を捻る。「また魔法を撃ったな貴様ァ!!」
「隙だらけだったぞ!!」
「卑怯者!!」
「戦いに卑怯もクソもあるか!!」
「あるわァ!!」
そこからは完全な乱戦だった。聖龍が暴れ、ガルヴァンが斬り込み、リオンが撃つ。山が削れていく。
「どうしてこうなったんですか……」フィーナは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
その時だった。聖龍が大きく跳躍する。
「まとめて潰してくれる!!」
空中からの一撃。巨大な魔力が拳へ集中していく。
「リオン!!あれはヤバい!!」ガルヴァンの顔色が変わった。
「分かってる!」
リオンは舌打ちした。「ちっ……仕方ねぇ」そして、片手を前へ突き出す。
「《家移転》」
空間が歪む。次の瞬間。空から"セーフハウス"が出現した。
「は?」聖龍の顔が固まる。
日本式のマンションタイプの住宅。しかも少し大きめ。それが重力に従って真上から落下した。
「待っ――」
ドゴォォォォォン!!!
凄まじい轟音。地面が揺れ、土煙が舞い上がる。
「イェァァァァァ!?」フィーナが悲鳴を上げた。
煙が晴れる。そこには巨大な家の下敷きになった聖龍がいた。
「ぐ、ぬぅぅぅ……!?」
人化状態の聖龍は家の重みで地面へ押さえ込まれていた。両腕を突っ張っているが動けない。
「……お前、最終手段を使ったのか」ガルヴァンが呟く。
「重量物は大体強い」
「発想が雑すぎるんだよ……」
リオンは肩で息をしながら近づいた。「今だ!!採血!!」
兵士が一斉に飛び出す。「は、はいぃ!!」
「押さえてる間に急げ!!」
「貴様らァァァ!!卑怯だぞォォォ!!」
「うるせぇ!!暴れるからだろ!!」
兵士は震えながら注射器を構える。
ぷすっ。
「あっ、普通に刺さった」
「人型便利!!」リオンは歓喜した。
「やめろォォォ!!その言い方をやめろォォォ!!」
聖龍の絶叫が、山岳地帯へ響き渡った。




