第267話 聖龍、人になる
聖龍との和解(?)から数時間後。
崩壊した洞窟近くには、簡易的な採血場が設置されていた。兵士が慌ただしく動き回り、大量の器具が並べられている。
ガルヴァンは遠い目をしていた。
「俺、なんで神話級存在の採血現場に立ち会ってんだろうな……」
「国家事業だからじゃないか?」
「嫌すぎる国家事業だわ」
リオンは腕を組みながら聖龍を見上げた。「で、どうやって血をもらう?」
『ふむ……』
白銀の聖龍は面倒そうに鼻を鳴らす。
『我ほどの存在になると、鱗が硬すぎて普通の刃では傷付かぬ』
「は?」
『人間用の注射針など折れる』
兵士が青ざめた。「む、無理です……」
「ですよねぇ……」フィーナも引いていた。
すると聖龍は、どこか得意げに顎を上げる。
『仕方あるまい』
次の瞬間。白銀の光が溢れた。風が渦巻き、巨大な龍の身体が縮んでいく。
リオン達は思わず目を見開いた。
「「「……は?」」」
光が収まる。そこに立っていたのは、一人の女性だった。長い銀髪。黄金の瞳。白を基調とした衣をまとい、頭部には龍角が伸びている。神秘的、という言葉そのものの存在感。
フィーナが呆然と呟いた。「ひ、人化……」
「ドラゴンって人になれるのか……」ガルヴァンも絶句している。
女性姿となった聖龍は腕を組み、鼻を鳴らした。「これなら採血も容易であろう」
声は変わらず偉そうだった。
しかし、リオンは目を輝かせた。「おお!!」
「ん?」
「血、めちゃくちゃ取りやすそうじゃん!!」
一瞬、空気が止まった。聖龍の額に青筋が浮かぶ。「……貴様」
「大型ドラゴン形態だと“どう刺すか”から考えなきゃいけなかったけど、人型なら普通に注射器でいける!」
「貴様ァ!!」
ドゴォッ!!
聖龍の拳が炸裂した。だがリオンは咄嗟に後ろへ飛ぶ。
「危ねぇな!?」
「誰のせいだと思っている!!」
その瞬間、リオンは腰の拳銃を抜いた。
パンッ!!
聖龍も即座に身を捻る。弾丸が銀髪を掠めた。
「いきなり魔法を撃つか普通!?」
「先に殴ったのお前だろうが!!」
「人化した直後に“採血しやすい”しか感想が無い男がおるか!!」
「だって重要だろ!?」
「重要でも言い方があるわァ!!」
再び拳が飛ぶ。リオンは回避しながら連射。乾いた銃声が山岳へ響いた。
パンッ! パンッ!!
フィーナが悲鳴を上げる。「和解したんじゃなかったんですかぁ!?」
「知らん!!」
「知らぬ!!」
二人同時だった。
ガルヴァンは額を押さえる。「なんで殴り合いと撃ち合いが同時進行してんだよ……」
聖龍は岩を蹴り砕きながら突っ込む。リオンもデカい岩を盾にした。
ドゴォン!!
デカい岩が吹き飛ぶ。
「怪力すぎるだろ!!」
「貴様が神経を逆撫でするからだ!!」
「事実言っただけだろうが!!」
「その“事実だけ言えばいい”という考えをやめろ!!」
ガルヴァンが深く頷く。「それは本当にそう」
「なんで敵側につくんだよ!?」
「今回はお前が悪い!」
フィーナも泣きながら頷いた。
「全面的にリオンさんが悪いです!!」
「解せぬ!!」
その時だった。聖龍の拳がリオンの頬を掠める。リオンはニヤリと笑った。
「……へぇ」
「何だその顔は」
「いや、お前」
リオンは口元の血を拭う。
「強ぇな」
一瞬。聖龍が目を見開いた。次の瞬間、彼女も笑った。
「当然だ。我を誰だと思っている」
そして再び。拳と銃声が同時に炸裂した。




