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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田 ソラ


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第263話 一線の手前

 神聖王国アストレアの北部山岳・聖龍の洞窟から約一キロ。


 岩陰に、即席の陣地が展開されていた。


「……展開完了」リオンが低く言う。


 地面に据えられたのは迫撃砲。そして遠距離狙撃用の装備。


「お前な……」ガルヴァンが頭を抱える。「これは交渉じゃない」


「交渉は終わった」リオンはスコープを覗きながら答えた。一拍。「次は"説得"だ」


「違うだろ」即座に否定。「それはただの攻撃だ」


 リオンは視線を外さない。洞窟の入口。静かだが確実に"いる"。


「向こうは一方的に終わらせた。こっちはまだ終わってない」


「だから撃つのか?」ガルヴァンが一歩詰める。


「牽制だ」


「牽制で済む相手か?」


 沈黙。そこへ。


「やめなさい」


 二人が振り向く。フィーナだった。意識は戻っているが、表情は硬い。


「それを撃てば……」ゆっくりと続ける。「本当に終わります」


「もう終わってるだろ」リオンが眉をひそめる。


「違います」フィーナは首を振った。一拍。「まだ"対話の余地"がある状態です」


「今は"拒絶された"だけだ。敵対ではない」ガルヴァンが頷く。


 リオンは黙る。


 フィーナが一歩近づいた。「ですが、攻撃すればそれは"敵"になります」


 静かな言葉だが、重い。


「聖龍は守護の存在。本気で怒らせれば……」一拍。「国が消えますよ」


 沈黙。風の音だけが響く。


「リオン」ガルヴァンが低く言う。「ここが線だ」


 リオンはスコープから目を離し、ゆっくりと立ち上がった。


「……分かってる」


 しかし、その顔にはまだ不満が残っている。


「でもな」リオンが呟く。「このまま帰るのも違う」


「ならどうする」ガルヴァンが腕を組む。


 一線は、越えなかった。しかしギリギリまで踏み込む。それが、悩んだ末の現状維持がリオンの答えだった。




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