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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田 ソラ


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第261話 礼は尽くした、その上で

 洞窟の奥。重い気配が、形を持つ。


 ゆっくりと姿を現したのは――巨大な影。白銀の鱗、静かな光を宿す瞳、圧倒的な存在感。


 聖龍だった。


「……でかいな」リオンは思わず息を呑んだ。


 ガルヴァンは一歩前に出るが、剣は抜かない。「刺激するな」


 フィーナはその場で跪いた。「聖龍様」頭を垂れる。


 沈黙。しかし、その瞬間。


『……人の子か』


 低く、響く声。頭の奥に直接届く。リオンの目が見開かれた。「……聞こえた」


「どうだ、話せるか?」ガルヴァンが即座に問う。


「……話せる」


 聖龍の視線がゆっくりとリオンに向く。


『妙な力を持つな。声が届いているか』


「……ああ」リオンは一歩前に出た。「話しに来た」


『ほう』わずかな興味。


 しかし、次の瞬間。視線が台車へと向く。肉、大量の供物。

 沈黙。そして、風が巻き起こった。


ゴォォォ……


 肉が浮く。「おい」リオンが手を伸ばすが、止まらない。すべての肉が聖龍の元へと引き寄せられていく。


『供物、受け取った』淡々とした声。


「……やられたな」ガルヴァンが小さく言う。


「……待て」リオンが眉をひそめる。「話はまだ……」


『用は済んだ』


 一言。沈黙。


『去れ』


 空気が震える。圧が一気に増した。リオンの足が止まる。

 しかし。


「……は?」


 低い声。ガルヴァンが横を見た。嫌な予感がする。

 

 リオンの顔が完全に変わっていた。「いや待て」一歩前に出る。「今のはおかしいだろ」


「やめろ」ガルヴァンが小声で言う。「相手は聖龍だぞ」


「知るか」即答だった。

 リオンは聖龍を見上げる。「供物だけ取って終わり?話も聞かずに?」


『……』聖龍が沈黙する。


「こっちはな」リオンが続ける。「ちゃんと礼を尽くして来てるんだよ」


「止まれ、もう止まれ」ガルヴァンが額を押さえる。


「止まらん」さらに一歩踏み出す。「ドラゴンの血が欲しい。交渉に来た」


『……無礼な』低い声。空気が揺れる。


 しかし、リオンは引かない。「無礼?そっちだろ」完全にキレていた。「人の話聞かずに供物だけ回収して"帰れ"って。商人でもやらねぇぞそんなの」


「終わったな」ガルヴァンが小さく呟く。


 フィーナは目を閉じていた。「……やってしまいましたね」


 長い沈黙。

 聖龍の瞳が、わずかに細められる。

『……人の子。我に意見するか』


「する」リオンは即答した。


 空気が張り詰める。


 しかし、その中で聖龍の瞳に、わずかな変化があった。『……面白い』ぽつりと。


「……何?」ガルヴァンが顔を上げる。


 リオンも少しだけ足を止めた。


 聖龍はゆっくりと首を動かす。『ここまで言う者は久しい』


 そして。


『ならば――』


 空気が変わった。ただの"拒絶"ではない。何かが始まろうとしていた。


「……ようやくか」リオンは小さく息を吐く。


 供物は奪われた。しかし会話は終わっていなかった。むしろ、ここからが本番だった。




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