第258話 行き先は神話の向こう側
王城・執務室。
「……で?」ガルヴァンが腕を組む。「ドラゴンと話すとして」一拍。「どこにいる?」
沈黙。リオンは天井を見上げた。「……知らん」
「だろうな」
「いや待て」リオンが手を上げる。「ドラゴンだぞ?その辺にいないのか?」
「いたら国が終わってる」ガルヴァンは即答した。
机の上には地図。広げても該当なし。
「伝承はある」ガルヴァンが指を置く。
「だが場所が曖昧すぎる。"北方の空"とか"神の山"とか、全部ふわっとしてる」
「……詰んだな」リオンは頭を抱える。
「珍しく正しい判断だ」
その時、コンコンとノック。
「入れ」
扉が開き、入ってきたのは聖女フィーナ。いつも通りの、あの笑みだ。
「何やら困っているようですね」
「……聞いてたか?」
「ええ、少し」
絶対全部聞いていた顔だった。
「嫌な予感しかしない」ガルヴァンがぼそりと呟く。
フィーナはゆっくりと歩み寄る。「ドラゴンをお探しで?」
「知ってるのか?」リオンが即答する。
フィーナは微笑んだ。「ええ」一拍。「私の故郷、神聖教国アストレア国の北部山岳に……」静かに告げる。「聖龍がおります」
沈黙。
「……は?」リオンの声が低くなる。
「今、何と言った」ガルヴァンが目を細めた。
「聖龍です」フィーナは繰り返す。「古より守護する存在。神の使いとも言われています」
「……出たよ」リオンは顔を覆った。「スケールが一気に上がった」
「確実なのか」ガルヴァンが冷静に聞く。
「はい」フィーナは頷く。「我が国では"不可侵"の存在。誰も近づかない」
「つまり?」
「手つかずです」にこりと笑った。
沈黙。
「最悪の条件だな」ガルヴァンが呟く。
「完全に未知だ」
リオンはゆっくりと立ち上がった。「……だが」小さく息を吐く。「いるなら、行くしかない」
「本気か」ガルヴァンが即座に言う。
「確認するだけだ」
「その"だけ"が危ない」
「面白そうですね」フィーナが楽しそうに言う。
「お前は黙ってろ」
リオンは地図を見つめた。北部山岳。遠い。しかし、「行く価値はある」
「護衛は最低限にしろ」ガルヴァンが剣に手を置く。「大軍は刺激になる」
「分かってる」
「一つだけ」フィーナが最後に言う。二人が視線を向けた。
「聖龍は……」少しだけ間を置く。「気難しいですよ」
沈黙。
「今さらだな」リオンは苦笑した。
「お前と同じだ」ガルヴァンも小さく笑う。
「やめろ」
こうして行き先は決まった。神聖教国アストレア国・北部山岳。そこにいるという聖龍。
リオンは小さく呟く。「……会話、できるか」
それは希望か。それとも、命知らずな挑戦か。答えはまだ、誰も知らない。




