第257話 噂と、無茶な依頼
王城・謁見室。
「……次は何だ」リオンは軽く頭を押さえながら言った。
最近、妙な来客が増えている。原因は分かっている。"王が動物と話せる"という噂だ。
「本日の来訪者です」文官が一礼する。
「商人の一団。代表は犬の獣人」
「もう隠す気もないな、その噂」ガルヴァンが小さく呟く。
「やめてくれ」
入ってきたのは小柄な犬の獣人の男。きっちりした服装だが、尻尾が少し落ち着きなく揺れている。緊張しているのが分かった。
「お初にお目にかかります、王よ」深く頭を下げる。「私は商人、ベルクと申します」
「用件は?」リオンは単刀直入に聞く。
ベルクは顔を上げ、はっきりと言った。
「ドラゴンの血を、手に入れていただきたい」
沈黙。
「……は?」リオンの声が低くなる。
「来たな、無茶振り」ガルヴァンが即座に額を押さえた。
「今、何て言った?」リオンがゆっくり聞き返す。
「ドラゴンの血でございます」ベルクは真剣だった。
「理由は?」ガルヴァンが代わりに問う。
「高級薬の素材。そして……」一拍。「奇跡の触媒です」
リオンは椅子にもたれた。「……つまり、ドラゴンをどうにかしろと?」
「はい」即答だった。
「無理だろ。ドラゴンだぞ?会ったこともない」リオンは即座に切り捨てる。
「ですが!」ベルクが一歩踏み出した。声が少し強くなる。「王は動物と話せると聞きました!」
「来たな、そこ」ガルヴァンがぼそりと呟く。
「もしドラゴンとも意思疎通が可能なら、交渉で血を分けてもらうことも可能ではないかと」
沈黙。リオンはゆっくりと顔を覆った。
「……なるほどな。そう来たか。理屈としては筋は通っている」ガルヴァンが横で言う。
「通ってたまるか」
「確認する」リオンはベルクを見た。「お前、本気で言ってるか?」
「本気です」一切の迷いなし。
「報酬は?」ガルヴァンが聞く。
「成功した場合、莫大な利益の一部を共和国へ正式に納めます」ベルクが即答した。
ガルヴァンがリオンを見る。「……悪くない」
「お前も乗るな」リオンは深くため息をついた。「……ドラゴン、な」
小さく呟く。動物は話せた。モンスターも話せた。なら……リオンはつぶやく。
「……あり得るのか?」
「可能性はある。だが」ガルヴァンが静かに言う。「死ぬ可能性も高い」
「だよな」リオンは即答した。しかししばらく考えて、ぽつりと言う。「……確認だけなら」
「やめろ」ガルヴァンが即座に反応する。
「まだ何も言ってない」
「顔に出てる」
「王!」ベルクが身を乗り出す。「どうか!!」
リオンは手を上げて止めた。「即答はしない。だが、検討はする」
ベルクは深く頭を下げた。「感謝いたします!」
商人が去った後、静かな空気が漂う。
「で?どうする」ガルヴァンが言う。
「……ドラゴンと会話、か」リオンは天井を見上げ、小さく笑った。「できたら面白いな」
「面白さで決めるな」
リオンは立ち上がった。「だが、確かめる価値はある」目が少しだけ真剣になる。
「……また厄介事だな」ガルヴァンはため息をついた。
「今さらだろ」リオンは苦笑する。
こうして次の"検証対象"はドラゴンになった。
特典は、ついに"神話級"へと踏み込み始めていた。




