第253話 通じる相手、通じない相手
数日後。城外・森林地帯。
「……検証続行だ」リオンは淡々と言った。
「もう止めん。どうせ止まらん」隣でガルヴァンが肩をすくめる。
「理解が早くて助かる」
最初は小型の魔物。犬に似た個体だ。
「おい」
『……何だ、人間』即座に反応。会話成立。
「縄張りは?」
『あっちだ』
「人は襲うか?」
『腹減ってたらな』
「正直だな」
次は猿型。
『それ食えるか?』
「石だぞ」
『じゃあいらん』
会話、問題なし。
「知性のある個体は通じる」ガルヴァンがまとめる。
「そうだな。だが……」リオンは森の奥を見た。「全部じゃない」
その時、地面が揺れた。
ドドドド……!
「来るぞ」ガルヴァンが剣を抜く。
現れたのは巨大なイノシシ型のモンスター。赤黒い体、荒い息、明らかな殺意。
リオンは一歩前へ出た。「おい」声をかける。
沈黙。そして……。
「グォオオオ!!」
突進。
「……ダメだな」リオンは即座に下がった。「会話にならん」
「見れば分かる」ガルヴァンが笑う。
会話は成立しない。理性がない。あるのは本能だけだ。
「倒すか?」リオンが短く言う。
「任せろ」ガルヴァンが前に出た。
激突。地面が抉れる。イノシシの突進をガルヴァンが横に流した。「速いな!だが単純だ!」
リオンも側面へ回り込む。「今だ!」剣を振るう。
数分後、静寂。巨大なイノシシは動かなくなっていた。
「……終わりだな」リオンが息を吐く。ガルヴァンが剣を収める。
「典型的なタイプだ。理性なし、対話不可か?」
「……線引きだな」リオンは少し考えた。「話せるやつと、話せないやつ」
処理班を呼ぶ前に、リオンが呟く。「……これ、食えるのか?」
「魔物肉だぞ?」ガルヴァンが見る。
「食えるやつもある」
しばらく後、簡易調理。火を起こし、肉を焼く。じゅう、と音が響いた。
一口。リオンはゆっくりと噛む。
「……うまい」真顔だった。
「……悪くないな。普通に肉だな」ガルヴァンも食べる。
「……救いだな」リオンは小さく息を吐いた。
「何が」
「話せないやつは、普通に食える」
「基準が独特だな」ガルヴァンが苦笑する。
「大事な問題だ」
リオンは肉を見つめた。「……会話できるかどうか。それが境界か」
森の奥では、理性ある魔物がひっそりと暮らし、理性なき魔物が暴れている。その違いをリオンははっきりと理解した。
「……特典、な」リオンはぽつりと呟く。
「便利だけど、面倒だろ」ガルヴァンが言う。
「ああ。とんでもなくな」リオンは苦笑した。
しかし、その"面倒"は確実に、この世界の見方を変えていた。




