第251話 渡された答えと、遅すぎた理解
王城・応接室。
「……助けてくれ」
開口一番、それだった。向かいに座る日本側の外交官が、わずかに目を細める。
「随分と切実ですね」
リオンは机に突っ伏した。「肉が食えない」
「……はい?」
数分後、事情説明が終わる。動物と会話できる、意思疎通が完全、結果として食事が詰んだ。
外交官は沈黙した。「……それは想定外ですね」
「だろうな!!」
外交官は腕を組んでかなり真剣に考える。「……倫理的問題と、文化的問題が同時に来ていますね」
「そういう問題じゃない。俺の食生活の問題だ」
さらに数分の沈黙。考え込む外交官。やがて「……一つ、あります。ですが少し……特殊です」
「何でもいい」リオンは即答した。
外交官は鞄を開き、一冊の本を取り出した。表紙には見慣れた文字。しかし絵は分かる。剣、魔法、異世界。
「これは?」
「小説です」
「……は?」
「いわゆる……"異世界転生"というジャンルの作品です」
リオンは固まった。「……は?」
「異世界に転生した人物が、特殊な能力。いわゆる"特典"を得て活躍する物語です」
リオンの思考が止まる。「……待て」ゆっくりと顔を上げる。
「転生?」
「はい」
「特典?」
「はい」
沈黙。
リオンは本をひったくるように受け取った。「……読む」
「参考になるかは分かりませんが」
「いいから読む」
数時間後。王城・執務室。
静寂の中、ページをめくる音だけが響く。そしてある一文を読んだ瞬間、リオンの手が止まった。
「……」
目が見開かれる。
「……異世界特典」ぽつり。
「チート能力!!」
さらに読み進める。
「スキル」
「加護」
「神の祝福」
本を閉じる。ゆっくりと立ち上がる。そして「異世界特典だと……!!」
叫んだ。
扉が開き、ガルヴァンが顔を出す。「うるさいぞ。どうした」
リオンは振り向いた。目が、完全に覚醒していた。
「分かったぞ」
「何がだ」
本を掲げる。「これだ。俺の能力。"特典"だ」
ガルヴァンは沈黙する。「……何の話だ」
「異世界転生だ。俺は前世持ちだろ。つまり!!」一拍。
「特典持ちだ!!」
ガルヴァンはこめかみを押さえた。
「……今さらか」
「今さらだ」
リオンは歩き回る。「精霊、神、動物会話。全部説明がつく」
「説明できているのか、それは」ガルヴァンが冷静に言う。
「雰囲気でだ」
リオンは立ち止まり、真顔で言った。
「……じゃあ、もう一個くらいあってもいいよな」
「やめろ」即座に否定された。
リオンは本を見つめる。「……特典か」
肉が食べられなくなった理由。それすらも……。
「仕様だったのか……」
諦め半分、納得半分だった。
「結論」ガルヴァンがため息をつく。
「お前は変だ」
「知ってる」
しかし、一つだけ変わったことがあった。理解した。"理由"がついた。
リオンは本を閉じ、ぽつりと呟く。
「……使いこなすか」
異世界特典。それは救いか、それとも新たな厄介事の始まりか。
ガルヴァンは確信していた。「……後者だな」
誰も否定できなかった。




