第249話 共有されない声と、現実的な男
王城・執務室。夜も更けた頃。
リオンは椅子に深く座り、ぐったりしていた。
「……疲れた」
扉が開く。「戻ったか」ガルヴァンが入ってきた。
その一言でリオンは顔を上げた。「ちょうどいい。話がある」
数分後。
「……つまり」ガルヴァンは腕を組み、ゆっくりと確認する。「馬と会話した」
「ああ」
「お前にだけ聞こえる」
「ああ」
「他の兵には聞こえない」
「ああ」
沈黙。
「……頭は大丈夫か?」
「真顔で言うな!!」リオンが机を叩く。
「いや待て」ガルヴァンは冷静だった。
「状況的にだな、神、精霊、謎のクマと来てる。次に"動物会話"が来ても不思議ではない」
「納得するな、そこは」
「証明できるか?」ガルヴァンが目を細める。
「できる」即答だった。「今から行くぞ」
王城・馬小屋。夜。静かな空間。
「……ここだ」リオンは歩きながら言う。
ガルヴァンは周囲を警戒していた。
「で?どの馬だ」
さっきの茶色の馬にリオンが近づく。
「おい」
馬がこちらを見た。
『また来たのか』
「こいつだ」リオンが指す。
ガルヴァンはじっと観察する。「……普通の馬だな」
「話す。やってみろ」
リオンは咳払いした。「さっきの件、こいつに言ってくれ」
『面倒だな』馬がぼやく。『まあいい』
「……今、喋った」リオンが言う。
ガルヴァンは真顔。「何も聞こえん」
「だよな。内容は?」
「"面倒だな"って言ってる」
「本当に言いそうな顔だな」ガルヴァンが眉をひそめた。
ガルヴァンは馬に近づき、じっと目を見る。「……おい」当然、反応はない。「何も感じないな」
『そいつ、怖い顔してるな』馬が言う。
「だってよ」リオンが苦笑する。
「何て?」
「"怖い顔してる"」
「失礼な馬だな」ガルヴァンが少しだけ顔をしかめた。
実験は続く。
「別の馬は?」
リオンは隣の馬へ近づいた。「おい」
『なんだ』
「……やっぱりか」
「全て聞こえるのか?」ガルヴァンが腕を組む。
「多分な」
「条件は?」
「不明」
「……なるほどな」ガルヴァンは静かに言った。「完全にお前だけの現象だ」
「だな」
少しの沈黙。夜風が吹く。
「悪くない能力だ」ガルヴァンがぽつりと言う。
「そうか?」
「気づけなかったものに気づける。今日みたいにな」
リオンは少しだけ笑った。「……まあな」
『その男、話がわかるな』馬が言う。
「だってよ」
「聞こえんがな」
ガルヴァンは踵を返した。「帰るぞ」
「もういいのか?」
「結論は出た」歩きながら言う。「お前にしか聞こえない。だが現実だ。なら……」一拍。「利用しろ」
リオンは小さく息を吐く。「……また仕事が増えたな」
「王だろ。逃げるな」ガルヴァンは笑った。
馬小屋を出る。夜は静かだった。しかし、リオンの世界は、また少しだけ広がっていた。
『また来いよ』
後ろから声がした。リオンは振り返らず、手を軽く上げる。
「ああ」
新しい"厄介事"は、どうやら逃げられそうになかった。




