第242話 噛み締めた結果、増殖する神殿
王都・教会前。
リオンは、しばらくヘリオス像を見上げたまま動かなかった。
「……父親、か」
ぽつりと呟く。隣では聖女が腕を組み、じっと見ている。
「謝罪は?」
「……しただろ、一応」
「心がこもっていません」
「仕様だ」
いつものやり取り。しかしリオンの中では、先ほどの"対話"がまだ残っていた。
(どう扱うかは、俺次第……か)
子供たちを神にするか、ただの子供として守るか。答えはもう決まっている。
(普通に育てる)
それだけだ。そのために。
「……少し、放っておくか」ぼそりと呟いた。
「何をだ?」ガルヴァンが眉をひそめる。
リオンは軽く顎で周囲を指した。ヘリオス教会、集まる民、祈る人々。
「信仰だよ。変に抑えたら余計に爆発する。なら、ある程度流させる」
ガルヴァンは数秒考え……。
「……まあ、一理ある。管理できる範囲ならな」
「だろ?」
その判断が数日後、とんでもない結果を生むとは知らずに。
一週間後。王城・執務室。
「王」ガルヴァンの声が、やけに低かった。
リオンは書類から目を離さない。「嫌な予感しかしないが、言え」
「許可は出していないな?」
「何の?」
一枚の報告書が、机に置かれる。リオンは目を通し固まった。
「……は?」
報告内容はこうだった。エルフ族が「森の神殿」建設を開始、狼族が「フェンリルの祠」を拡張、ドワーフが「鍛冶神の大炉神殿」を着工、人族商人連合が「商業神の加護堂」を計画中。
そして最後の一行。元奴隷解放民による「守護神リオンの像」設置運動。
「……最後おかしいだろ」
リオンが顔を上げる。ガルヴァンは真顔だった。
「お前が原因だ」
「なんでだ」
「抑制しなかったからだ」
ぐうの音も出ない。さらに追い打ちが来る。
「聖女様の教会が許されるなら、我々も当然。公平性を求める」
各族からの陳情が山積みだった。完全に理屈が通っていた。
「……連鎖した」リオンは頭を抱える。
「爆発したな」ガルヴァンが頷く。
その頃、王都の外れではエルフたちが木々と一体化した神殿を建て、狼族が巨大な石の祠を組み上げ、ドワーフが地下で轟音を響かせていた。完全な神殿ラッシュだった。
王城に戻り、リオンは机に突っ伏した。
「やらかした……」
「今ならまだ止められる」ガルヴァンが冷静に言う。「止めるか?」
「止めたら?」
「暴動」
「だよな……」
詰みだった。
そこへ。
「リオン!」ラミが元気よく飛び込んでくる。後ろにはゼオン。
「見て見て!神殿いっぱいできてる!お祭りみたい!」
無邪気だった。
リオンは遠い目をする。「……まあ、楽しそうではあるな」
「現実逃避するな」ガルヴァンが呆れた。
さらに追い打ちをかけるように、聖女が入ってくる。
「良い流れですね」満足そうだった。「信仰が広がっています」
「広がりすぎだ」リオンは即答した。
精霊たちが楽しそうに飛び回る。
『神様いっぱい!』
『にぎやか!』
『お祭り!』
完全にカオスだった。
リオンは天井を見上げた。
「……ヘリオス。これ、お前のせいでもあるからな」
遠くで、精霊が小さく笑った。
『たぶん喜んでるよ』
「やっぱりゴミだな」
リオンは即答した。
こうしてリオンの意思を無視してガルリオン共和国は**多神教国家(強制)**へと進み始めた。




