第241話 神と王の対話、奪うか、守るか
白い空間。
どこまでも続く、境界のない世界。
その中心で、リオンとヘリオスは向き合っていた。
「さて」ヘリオスが軽い調子で手を叩く。
「本題に入ろうか」
「どうせろくでもない話だろ」リオンは腕を組んだまま睨む。
「失礼だなぁ」
ヘリオスは笑った。そして、ほんの一瞬だけ、空気が変わる。神の気配が、重く沈んだ。
「君の力、ちょっと問題なんだよね」
口調は軽いまま。だが、言葉の重みが違った。
「世界の外から来た魂が、神性と妙に噛み合ってる。放っておくと、バランス崩れるんだよ」
リオンは黙って聞いている。
「だから……」ヘリオスは指を立てた。
「力、回収しようかなって」
沈黙。白い空間が、わずかに軋む。
「……は?」リオンの声が低くなる。
「安心してよ。死にはしない」ヘリオスは笑ったまま続ける。「ちょっと"普通"に戻るだけ。王様やるには十分でしょ?」
軽い。あまりにも軽い。
リオンはゆっくりと息を吐いた。そして一歩、前に出る。
「……ふざけるな、最初に合った時より言葉が軽いぞ」
空気が変わった。
「俺の力をどうこうする前に、先に説明することがあるだろ」
「ん?」ヘリオスが首を傾げる。
「なんで俺の子供が、ああなってる」
沈黙。
「ゼオン。リオナ」名前を出す。
「神だの、フェンリルだの。勝手に"神に近い存在"扱いされてる。それが一番気に入らない」
言葉に、怒りが乗る。
ヘリオスは少しだけ目を細めた。「……ああ、その話?」
軽い。やっぱり軽い。
「子供だぞ」リオンは続ける。「普通に生まれて、普通に育つはずだった。それを勝手に神話に巻き込むな」
声が低くなる。「神だの信仰だの、そんなもん背負わせる気はない」
白い空間に、言葉が響く。
ヘリオスはしばらく黙り、やがてぽつりと言った。
「でもさ、面白いじゃん」
リオンのこめかみに青筋が浮かぶ。「面白い、で済ませるな」
「だって事実だし」ヘリオスは肩をすくめる。
「ゼオンは精霊に愛されてるし、リオナはフェンリルの因子強いし。止められないよ?」あっさり言い切る。
「止めろ」
「無理」即答。「世界の流れだから」
「じゃあ変えろ」
「それは君の役目でしょ?」
リオンの動きが止まった。
「面白いだけで転生なんかしないよ、あんなに神々しく転生させたんだし」ヘリオスは笑う。
「丸投げじゃないよ?役割はちゃんとある」
リオンは深くため息をついた。
「……やっぱりゴミだな」
「ひどいなぁ」全く堪えていない。
しかし、ヘリオスは少しだけ真面目な顔になった。
「でもさ、一個だけ教えてあげる」
空気が、わずかに変わる。
「君の子供たち、神に"近い"だけで、神じゃない」
「……何が言いたい」リオンが目を細める。
「どう扱うかは、君次第」ヘリオスは指を立てる。
「神にするか、ただの子供にするか。世界は、君に委ねてる」
静かな言葉だった。
リオンは黙る。数秒。
そして……。
「なら決まってる」はっきりと言った。
「ただの子供だ。俺の子だ。それ以上でも、それ以下でもない」
迷いはなかった。
「いいね」ヘリオスがにやりと笑う。
「そういうの好きだよ。だからさ――」
くるりと背を向ける。
「今回は見逃してあげる」
「力は?」リオンが眉をひそめる。
「回収しない」軽く手を振る。
「代わりに……」
振り返る。
「ちゃんとやってよ、父親」
その言葉と同時に、世界が崩れた。
気づくと、リオンはヘリオス像の前に立っていた。
「……今、何が……」聖女が目を見開く。
「おい、大丈夫か」ガルヴァンも眉をひそめる。
リオンはゆっくりと息を吐いた。そしてぽつりと呟く。
「……やっぱり、気に入らん」
だがその顔にはほんの少しだけ、覚悟が宿っていた。
王は決めた。神に従うのではなく、父として生きることを。




