第240話 形だけの謝罪と引きずり込まれる意識
ガルリオン王都。新設された教会前。
毎朝。
「王。時間です」
聖女の冷たい声が響く。リオンは完全にやる気のない顔で立っていた。目の前には巨大なヘリオス像。朝日を背に、やたら神々しく輝いている。
「……毎日やる必要あるか?」
「あります」
即答だった。
少し離れた場所でガルヴァンが腕を組んで見守っている。
「諦めろ。これはもう日課だ」
「最悪の習慣だな……」
リオンは渋々、像の前に立った。そして一応、頭を下げる。
「えー……偉大なる創造神ヘリオス様に対し、軽率な発言をしたことを……」
ちらっと聖女を見る。睨まれている。ため息。
「……一応、謝罪します。以上」
短い。あまりにも短い。聖女のこめかみがぴくりと動いた。
「心がこもっていません」
「そりゃそうだろ。本心じゃないし」
ガルヴァンが遠くで吹き出した。
「開き直るな」
それでも儀式は続く。翌日も、その翌日も。毎朝、同じやり取りが繰り返された。
「謝罪を」
「はいはい」
「心を込めて」
「無理」
いつの間にか王都の新しい風物詩になりつつあった。
そして、数日後。その日も同じようにリオンは像の前に立っていた。
「……偉大なる創造神ヘリオス様に対し……」
いつも通りの棒読み。
その瞬間、違和感があった。
風が、止まる。音が、消える。
「……?」
顔を上げると、周囲の人間が動いていなかった。聖女も、ガルヴァンも、まるで時間が止まったように静止している。
「……おい」
声が、やけに響く。
次の瞬間、視界が白く塗りつぶされた。
気がつくと、どこまでも続く白い空間にいた。上下も距離も分からない。ただ静かで、何もない。
「やあ」
軽い声が響いた。振り返ると一人の男がいた。ゆるい笑み、気の抜けた立ち姿。しかしその存在そのものが異質だった。
「……お前か」
リオンは顔をしかめる。
「ヘリオス」
男は笑った。
「正解。創造神ヘリオスでーす」
軽い。あまりにも軽い。
「帰る」
「帰さないよ?」
即答された。
ヘリオスは楽しそうに近づいてくる。
「いやー、面白いね君。毎日あんな雑な謝罪してくれてさ。ちゃんと聞いてたよ?」
「聞いてたのかよ……」
「そりゃ神様だからね」
にこにこしている。殴りたくなるタイプだった。
リオンは腕を組んだ。
「で?何の用だ。ヘリオス……最初は威厳があったぞ」
ヘリオスは少し考えてから、あっさり言った。
「最初はね……一応、創造神だからね……あと、話しに来た。」
にやりと笑う。
「ちょっと文句言いに」
「こっちも山ほどある」
リオンも即座に返す。
一瞬の沈黙。そして、二人が同時に口を開いた。
「お前な」
完全に被った。白い空間に、奇妙な空気が流れる。
創造神と王。普通ならあり得ない対面だった。
リオンはため息をつく。
「……やっぱりダメだな、お前」
「いやー、ひどいなぁ」
ヘリオスは笑った。
「でも」
少しだけ、目が細くなる。
「君、面白いから許す」
「許される覚えはない」
即答だった。
現実では、リオンが像の前で微動だにせず立っていた。
「……?」
聖女フィーナが眉をひそめる。
「おい、様子がおかしいぞ」
ガルヴァンも気づいた。
だがリオンの意識はすでに神の領域へと引きずり込まれていた。
王と神。本気の会話が、今始まる。




