第238話 見抜かれる謝罪
王城・謁見の間。
重厚な扉が開かれた瞬間、空気が一気に張り詰めた。
そこに立っていたのは北東の神聖教国アストレアの聖女フィーナ。白い神官服に金の髪。そして何より、その目が怒りを隠していなかった。
玉座の前でリオンはいつもの"王の顔"を作っていた。隣にはガルヴァン、背後には最低限の護衛。完全に公式の場だ。
「ようこそ、ガルリオン共和国へ」
穏やかな声。
「遠路はるばるの来訪、歓迎す…」
「本題に入ります」
即切り捨てだった。聖女フィーナが一歩踏み出す。
「創造神ヘリオス様への侮辱発言、確認されています。弁明は?」
空気が重くなる。リオンは一瞬だけ目を閉じ次の瞬間、完璧な笑みを浮かべた。
「誤解です」
ガルヴァンが横で目を細めた。(始まったな)
「確かに私は、ヘリオス様について言及しました。ですがそれは……」
一拍置く。
「親しみを込めた表現です」
聖女フィーナの眉がピクリと動く。
「親しみ?」
「はい」リオンは堂々と言い切る。
「偉大なる存在ほど、距離を縮める言葉が必要です。民が神を身近に感じるための……」
「嘘ですね」
即断だった。場が凍る。リオンの笑顔が、ほんの一瞬だけ止まった。
聖女フィーナはまっすぐ見ていた。
「あなた、本心で謝る気がありませんね」
沈黙。ガルヴァンが小さく息を吐く。(見抜かれたか)
リオンはゆっくりと口を閉じ、観念したように肩の力を抜いた。
「……バレたか」
「当然です」
聖女フィーナが一歩踏み出す。
「私は神の声を聞く者です。祈りも、偽りも、分かる。あなたの言葉には"謝罪"がない」
「いや、一応謝ってはいるんだが」
「言葉だけです」
「ぐうの音も出ない」
ガルヴァンが横でぼそりと言った。
聖女フィーナはさらに問い詰める。
「では改めて問います。あなたはヘリオス様を侮辱しましたか?」
真正面からの問い。逃げ場はない。
リオンは少しだけ考え、あっさり答えた。
「したな」
「正直すぎるだろ……」
ガルヴァンが天を仰ぐ。
「理由は?」
リオンはため息をついた。
「……あいつ、適当なんだよ。世界の扱いが軽い。人の人生も軽い。だから、気に入らない」
静かな、本音だった。場の空気が変わる。
聖女フィーナはしばらく黙り、やがて低く言った。
「……あなた、本気で言っているのですね」
「ああ」
「命を賭けても?」
「別に賭けたくはないが、曲げる気もない」
長い沈黙。
やがて聖女フィーナは深く息を吐いた。怒りは消えていない。だが、さっきとは違う色が混じっていた。
「……厄介ですね」
「だろうな」
ガルヴァンが小さく頷く。
リオンは肩をすくめた。
「で、どうする?処刑か?それとも神罰でも呼ぶか?」
半分冗談だった。しかし聖女フィーナは真顔のまま言った。
「どちらもしません」
意外な言葉だった。
「ですが……」
一歩、距離を詰める。
「あなたを、このままにはしません」
「どうする気だ?」
聖女フィーナははっきりと言い切った。
「ヘリオス様の前に連れていきます」
沈黙。
「……は?」
ガルヴァンも固まる。
「可能なのか?」
「はい。神に直接、謝罪してもらいます」
リオンは天井を見上げた。
「……最悪だ」
心の底からの感想だった。
王城に、再び嵐の気配が満ちる。今度の相手は創造神そのものだった。




