第235話 リオンの告白 、前世という名の記憶
北部山岳地帯の森。
夜は更け、月は高く昇っていた。
フェンリルとなったリオナは、 子供達を背に乗せたまま静かに伏せている。
ラミとゼオンは、いつの間にかその毛並みに埋もれて眠っていた。
巨大な銀の背が、ゆっくり上下する。
命のリズム。
その光景を見つめながら、 リオンは焚き火の火を見つめていた。
「……なあ」
ぽつりと呟く。
リゼが視線を向ける。
「どうしたの?」
ルナも気付く。
ガルヴァンは無言で座り直した。
リオンは少し迷い、 それでも口を開いた。
「俺は……」
火がぱちりと弾ける。
「この世界の生まれじゃない」
静かな夜に、言葉が落ちる。
リゼの目が細くなる。
ルナは驚かない。ただ、真剣に聞いている。
ガルヴァンは動じない。
「……前世の記憶がある」
リオンは続けた。
「別の世界で生きて、死んで……気づいたら、この世界にいた」
風が森を撫でる。
「剣も、魔法もない世界だ。神も精霊も、見えない世界」
リゼが小さく呟く。
「……だから、時々変なこと言うのね」
「変って言うな」
少しだけ苦笑する。
「俺は特別な人間じゃなかった。ただの凡人だ。守りたかった物もなかった。後悔も無い」
ルナの指が、そっとリオンの手に触れる。
「……だから?」
静かな問い。
リオンはフェンリルを見上げた。
巨大な銀色の守護。
「だから、今世では絶対に守ると決めた。家族をこの国をこの時間を」
声は低く、だが揺るがない。
ガルヴァンが鼻を鳴らす。
「だから妙に覚悟が重いのか若いくせに、老兵みたいな目をする」
「褒めてるのか?」
「半分はな」
リゼが優しく笑う。
「でも、それがあなたでしょ。前世があろうがなかろうが今ここにいるのは、私達の王様よ」
ルナも頷く。
「うん。リオナの父親」
焚き火の光が、三人の顔を照らす。
責める者はいない。
疑う者もいない。
ただ、受け入れている。
リオンは少しだけ驚いた顔をした。
「……もっと驚くかと思った」
リゼが肩をすくめる。
「娘が夜になるとフェンリルになるのよ?」
ルナが真顔で言う。
「今さらリオン様の前世くらいで驚かない」
ガルヴァンが締める。
「それより問題は」
フェンリルを指差す。
「孫が神話級だという現実だ」
全員が沈黙、確かにそれが一番重い。
その時、巨大な銀の尻尾が そっとリオンの背に触れた。
振り向くとフェンリルの瞳が、静かにこちらを見ている。
理解しているような目だった。
リオンはゆっくり立ち上がり、 その額に手を置く。
「……前世がどうであれ、今世はお前の父親だ」
フェンリルは小さく鼻を鳴らした。
ふすん。
優しい音だった、森の夜は深い、だが焚き火の周りだけは温かい。
前世も、神話も、王という立場もその全てを包み込むように家族会議は、いつの間にかただの団欒になっていた。




