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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田 ソラ


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第233話 家族会議の結論と、観察任務

 王城・小会議室。


 普段は外交の密談や軍事会議に使われるその部屋で史上もっとも私的な議題が話し合われていた。


 議題。


【夜になると娘がフェンリルになる件について】


 沈黙が重い。


 リオンは額を押さえたまま言った。


「……まず確認だ。危険性は?」


 精霊が、ふよふよと宙を漂いながら答える。


『基本的にはゼロ』

『むしろ守護本能が強いから、安全側だね』

『昨夜も王を守ってただけだし』


「守る距離が近すぎるんだよ……」


 リオンはぼそりと呟く。

 実際、昨夜の銀狼は完全に“護衛位置”に陣取っていた。

 ガルヴァンが腕を組む。


「つまり暴走ではない、と」


『うん。成長現象』


 さらっと恐ろしい単語が出た。

 ルナがリオナを抱きながら不安そうに聞く。


「……体に負担は?」


『ないよ』

『神性と肉体の適応が始まっただけ』

『むしろ自然』


 リオンとガルヴァンは同時に遠い目をした。


「自然の基準がおかしい」


「今さらだろ」


 問題は別にあった。

 ガルヴァンが机を指で叩く。


「王都では無理だな」

 

 全員が頷いた。

 夜になれば巨大な銀狼。

 もしも、市民に目撃されれば……。


「神獣降臨」

「王家の怪物」

「新たな信仰」


 噂だけで国家が揺れる。

 リオンは即断した。


「場所を移す」


 視線が自然と一致する。


 北。


「北の地帯の森だな」


 北部の森。


 精霊の結界に守られ、聖獣が集う禁足地。

 そして、フェンリルの神話が色濃く流れる場所。


 精霊達も嬉しそうに頷く。


『あそこなら問題ないよ』

『神性が安定する』

『聖獣達も慣れてるし』

「慣れてるって何だよ……」


 リオンのツッコミは、もう半分諦めだった。

 ルナが静かに口を開いた。


「……観察、するの?」


 リオンは真剣な顔で頷く。


「ああ、封じるんじゃない。隠すためでもない」


 一度、言葉を選ぶ。


「守るためだ」


 ルナは少し驚いた顔をしてから、柔らかく笑った。


「……うん」


 母としての覚悟が、その瞳に宿っていた。

 ガルヴァンが立ち上がる。


「では決定だな」

「王族非公開任務として処理する」

「北部山岳地帯の警備は俺が強化する」

「夜間立入は全面禁止」

「記録は極秘管理」


 いつもの有能すぎる宰相モードだった。

 リオンが苦笑する。


「仕事が早いな」


「孫だからな」


 即答だった。

 ルナが小さく吹き出す。

 

 その日の夕方。

 王都から極秘の移動が行われた。

 

 護衛最小。

 記録なし。

 表向きは王族の静養。


 だが実際は。


「……観察開始、か」


 北部の森に到着したリオンは、深く息を吐いた。

 夕日が森を赤く染める。

 聖獣達が静かに道を開けるように現れる。


 まるで帰るべき存在を迎えるように。

 ルナの腕の中で、リオナが小さくあくびをした。


 そして。

 森の奥から、精霊達の光が集まり始める。

 夜が来る。

 リオンは空を見上げた。


「……頼むから今回は穏やかに頼むぞ」


 その願いが届くかどうか。

 答えは、もうすぐ分かる。


 観察生活、開始。




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