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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田 ソラ


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第232話 夜の正体と、家族会議

 夜明け前。


 王城の一室は、異様な空気に包まれていた。


「リオン!!」


 扉が勢いよく開かれる。

 飛び込んできたのは、ルナだった。


「リオナがいないの!!」


 半ば叫びに近い声。

 普段の落ち着いた狼族の王妃の姿はそこになかった。


「部屋にも、揺り籠にもいなくて……!」


 その後ろから、眠そうな顔のガルヴァンが入ってくる。


「……王、緊急呼び出しって聞いたが……」


 言葉は途中で止まった。

 執務室の中央。

 そこにいたのは巨大な銀色の狼。


「……は?」


 ガルヴァンの思考が止まる。

 ルナも、言葉を失った。

 銀狼は床に伏せ、落ち着いた様子で尻尾をゆっくり揺らしている。

 

 そして、リオンの隣にぴったり寄り添っていた。

 リオンは疲れ切った顔で口を開く。


「……落ち着いて聞け。まず結論から言う」


 一拍。


「これ、多分リオナだ」


 沈黙。


「は?」


「……は?」


 ルナとガルヴァンの声が完全に重なった。


「昨夜、執務室に突然現れた。襲われると思ったら舐められた。で、様子を見てたらずっと俺の側を離れない」


 リオンは淡々と説明する。

 銀狼はその間も、満足そうに伏せている。

 ルナは震える声で言った。


「……証拠は?」


 リオンは無言で指を差した。

 

 銀狼の首元。

 そこには見覚えのある、小さな布の護符。

 リオナの揺り籠に付けていたものだった。


「……」


 ルナの膝が、がくんと崩れた。


「うそ……でしょ……」


 ガルヴァンは額を押さえる。


「……いや待て。半年の赤ん坊が巨大狼になる理屈を説明しろ」


 その瞬間。

 部屋の空気が、ふわりと揺れた。

 淡い光。

 精霊達が、何食わぬ顔で現れる。


『ああ、それ?』


 あまりにも軽い声だった。


『夜になるとフェンリルになるだけだよ』


 全員、固まった。


「……は?」


 リオンの声が乾く。

 精霊は続ける。


『昼は普通の狼族の子。夜は神性が強く出る時間だからね。フェンリルの性質が表に出るの。よくあることだよ』


「よくねぇよ!!」


 三人のツッコミが完全に一致した。

 その時。

 窓の外が、ゆっくりと明るくなり始めた。


 朝日。

 光が差し込む。

 すると銀狼の体が、淡く輝いた。

 粒子のような光がほどけ、縮み、形を変える。


 数秒後。

 床の上にいたのは。


「……すぅ……」


 銀色の髪をした、赤ん坊。

 リオナが、気持ちよさそうに眠っていた。

 ルナが駆け寄り、震える手で抱き上げる。


「……リオナ……!」


 赤ん坊は起きることもなく、すやすやと寝息を立てる。

 

 異常なし。

 怪我もない。

 ただ、よく眠っているだけ。

 

 ルナは大きく息を吐き、肩の力を抜いた。



「……よかった……」


 ガルヴァンは椅子に座り込み、天井を見上げる。


「……もう驚かんぞ俺は」


 リオンは静かに言った。


「いや、驚け。これは驚く案件だ」


 精霊が楽しそうに漂う。


『フェンリルの血が目覚めただけだよ。むしろ順調。神の子だしね』


 リオンは顔を覆った。


「また胃が痛くなる単語をさらっと増やすな……」


 沈黙の後。

 ガルヴァンが真顔で言った。


「……で、どうする」


 リオンは、ゆっくりと椅子に座る。

 ルナはリオナを抱いたまま隣へ。

 朝日が部屋を満たす中。

 王は、深く息を吐いた。


「……家族会議だ」


 こうして王国史上もっとも規模の小さい、そして最も重要な会議が始まった。

議題。


 夜になると娘が聖獣になる件について。




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