第230話 半年後、王都に現れた銀色の影
リオナが生まれてから、半年が過ぎた。
王都は相変わらず賑やかで市場は活気に満ち、人々は平和を疑わない顔で行き交っている。
少なくとも、表向きは。
「……銀色の、狼?」
王城の一室。
リオンは、提出された報告書に目を落としたまま、静かに聞き返した。
「はい。夜明け前、市壁付近で複数名が目撃しています」
「大きさは中型。魔獣にしては動きが静かすぎる、と」
報告に立つ兵士の声は、どこか慎重だった。
「遠目でも分かるほど、毛並みは銀色。
月光を反射して……“見られていた気がした”と」
リオンは、指先で机を軽く叩いた。
銀色。
狼。
王都。
偶然で片付けるには、少し引っかかる。
「被害は?」
「今のところ、ありません。家畜も、人も、何一つ」
「……そうか」
それが、逆に不自然だった。
王都の周辺は結界も巡回も厚い。
魔獣が入り込めば、何かしらの痕跡は残るはずだ。
「追加の目撃情報は?」
「はい。路地裏、屋根の上、市壁の影。共通しているのは、“追うと消える”ことです」
リオンは、ゆっくりと立ち上がった。
「場所は?」
「王都北区から、旧水路付近です」
「……分かった。これは俺が見る」
兵士が一瞬、目を見開いた。
「リオン様、自ら、ですか?」
「ああ。下手に騒げば、民が不安になる」
それに理由は、それだけじゃない。
(銀色の狼、ね……)
脳裏をよぎるのは、陽の下で笑う、銀髪の小さな存在。
「ルナには?」
「まだです。報告は、リオン様が最初です」
「なら、尚更だ」
リオンは外套を手に取った。
「これは“魔獣調査”だ。余計な憶測は流すな。分かったな?」
「はっ!」
扉を出る直前、リオンは一度だけ足を止め、窓の外、王都の空を見上げた。
穏やかな青。
何事もない昼。
だが、その裏側で何かが、確かに動いている。
「……半年、か」
誰にも聞こえない声で呟き、リオンは王都の雑踏へと歩き出した。
銀色の影を追って。




