第229話 王都にて撮られているとも知らずに
王都の中庭は、昼下がりの陽光に包まれていた。
白石の回廊、噴水の水音、遠くで聞こえる市のざわめき。
その中心で。
「ほらぁ、リオナ。ほーら、空だぞー」
厳格で知られる王国最強の将軍、王国狂狼の宰相、ガルヴァンが完全に“おじいちゃんの顔”で赤子をあやしていた。
鎧は外し、普段の鋭さは影もない。
大きな手で、恐る恐る、しかし誇らしげに抱く小さな命。
「……ふふっ」
リオナは銀色の髪をきらりと光らせ、意味も分からぬまま笑った。
その瞬間。
ピコッ
かすかな音。
ガルヴァンは気付かない。
完全に、完全に油断している。
少し離れた回廊の柱の影。
そこに、妙に姿勢のいい青年がいた。
「……よし、今のは完璧だな」
リオンは、さっとカメラを袖に隠した。
表情は至って真面目。
だが、その目はどこか楽しそうだった。
「……リオン様、何してるの?」
隣で腕を組んだルナが、呆れた声を出す。
「記録だよ、記録。王国の貴重な一瞬をな」
「嘘。完全に私情でしょ」
「否定はしない」
即答だった。
ルナはため息をつき、視線を前に戻す。
ガルヴァンは、リオナの小さな手を握られて……。
「……おお、力があるな。将来は……。」
「将来の話は早すぎます、宰相様」
近くの侍女がやんわり止めるが、
ガルヴァンは真剣そのものだ。
「いや、大事なことだ」
その背中を、遠くから、もう一度だけリオンは見つめた。
(……この人が、こんな顔をする日が来るとはな)
ピコッ
二度目の音は、さらに小さく。
「……後で絶対バレるわよ」
「その時は、その時だ」
「宰相様に消されるわよ?」
「それも歴史だ」
ルナは完全に呆れた顔で、それでも口元だけは少し緩めていた。
王都の昼下がり。
平和で、穏やかで誰も気づかない場所で、将軍の尊厳と宰相の尊厳が、静かに保存されていた。




