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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田 ソラ


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第226話 束の間の平穏

 それからしばらくの間。

 

 ガルリオン共和国には、穏やかな時間が流れていた。

 王都の朝は、鐘の音ではなく、市場の呼び声で始まる。


「パンが焼けたぞー!」

「今日の果物は甘いぞ!」


 通りには人族、獣人、エルフ、ドワーフが混じり、誰もがそれを特別とは思わなくなっていた。


 それだけで、この国は十分に変わったのだと分かる。

 王宮の中も、不思議なほど静かだった。

 側室制度は、リゼの手で完全に管理され、揉め事は起きない。


 いや起こさせない。


「次の謁見は午後から午前は、王に余計な刺激を与えないこと」


 側室達は、真顔で頷いていた。

 誰一人、異を唱えない。

 リオンは、その光景を遠くから見て呟く。


「……平和だな」


「錯覚だ」


 即座に、ガルヴァンが切り捨てる。


「嵐の合間だ」


「だよな」


 北部の森も、静かだった。

 結界は安定し、精霊は過剰に騒がない。

 ゼオンは、聖獣達と遊び、

 ラミは木陰で昼寝をする。

 

 リゼとルナは、並んで森を歩いていた。


「最近、何も起きないわね」


 リゼが言う。


「……少し、不安になります」


 ルナは、空を見上げて答えた。


「嵐の前ほど、風は止まります」


 王都の執務室。

 リオンは、久しぶりに書類を早く片付け、窓辺に立っていた。

 遠くから、子供達の笑い声が聞こえる。

 それを聞いて、肩の力が抜けた。


「……これが平和なのか」


 誰にともなく、呟く。

 ガルヴァンは、珍しく皮肉を言わなかった。


「少なくとも、今はな」


 その夜。

 王都の灯りは、いつもより柔らかく見えた。

 

 精霊も、遠くで静かに揺れているだけ。

 誰も、神話を語らず。

 誰も、争いを持ち込まない。


 ただ生きている日常が、そこにあった。


 だが。


 リオンは、なぜか胸の奥に、小さな引っかかりを感じていた。

 

 平和すぎる。

 

 それが、一番不安だった。

 彼はまだ知らない。

 この静けさが、次の波のための助走であることを。




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