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スキル《家転移》で元傭兵の俺は静かに笑う。  作者: 山田 ソラ


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第225話 正室と側室、そして最強の管理者

 結婚式から、数日後。


 王都はまだ祝賀の余韻に包まれていたが、

 現実は待ってはくれなかった。


「……来たな」


 執務室の机に積まれた書簡の山を見て、

リオンは乾いた声を出す。

 差出人は、各国の王家、貴族、共和国首脳。

 

 内容は、ほぼ同じ。

 正式な婚約は難しくとも、王の伴侶としての縁をガルヴァンは腕を組み、淡々と言った。


「正室が決まった以上、“完全拒否”は、また別の火種になる。だが、正室を増やすのは無理だ。よって……」


 リオンは、ゆっくり頷いた。


「側室だ」


 政治的には、最も無難な着地点だった。

 その日の夕方。

 リオンは、リゼとルナを呼び、正直に話した。


「各国の婚約申し込みを、“側室”という形で受ける案が出ている」


「正室は、二人だけだ」


 一瞬の沈黙。

 来るか、雷。


 だが。

 リゼは、意外なほど落ち着いていた。


「……なるほど。完全拒否よりは、国を守る手段ね」


 ルナも、ゆっくり頷く。


「狼族的にも、序列が明確なら問題ありません。正室が頂点。それ以下は、それ以下」


 リオンは、内心で深く安堵した。


 そして。


 「ただし」


 リゼが、指を立てる。


「条件があるわ」


 嫌な予感。


「側室の管理。全部、私がやる」


 即答だった。

 数日後。


 正式な王命が出る。


【王妃制度の制定】

・正室

 第一王妃:リゼ

 第二王妃:ルナ

・側室

 外交的婚約として受け入れる

 政治的地位のみを持つ

 正室の指示に従うことを義務とする

・側室管理責任者

 第一王妃 リゼ


 側室候補たちが、王宮に集められた日。

 リオンは、一歩下がった位置に立っていた。

 前に出たのは、リゼ。

 微笑みながら、しかし声は冷静だった。


「ようこそ。ここでは、“王の伴侶”である前に“王妃の管理下”に入ります」


 場の空気が、一瞬で引き締まる。


「序列、規律、発言権。すべて、私が決めます。不満がある方は、今ここで帰って構いません」


 誰も、動かなかった。

 動けなかった。


 後で、リオンは小声で言った。


「……怖かったんだが」


 リゼは、涼しい顔で答える。


「安心して私が怖いのは、内側だけよ」


 ルナは、満足そうに尾を揺らす。


「狼族的に言えば、完璧な群れ構成です。頂点が明確」


 ガルヴァンは、遠くで頷いていた。


「……これで、外交も内政も通るな」


「胃は痛いが?」


 リオンは、机に突っ伏した。

 ガルヴァンはリオンの様子を見ながら。


「……生きてるぞ。リオン」


 リオンは、二人の正室を得て。

 同時に最強の管理者を、自らの宮廷に迎え入れた。

 外の国は満足し、内は秩序を保つ。

 

 ただ一つだけ確かなことがある。

 この国で一番、逆らってはいけない存在は王ではなく。

 第一王妃リゼだった。




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