第224話 王の選択と、二つの冠
悩んだ末、リオンは決めた。
逃げない。
濁さない。
形式で誤魔化さない。
「……やる」
王都・執務室で、その一言を口にした瞬間。
ガルヴァンは、深く、長く息を吐いた。
「そうか」
「なら準備だ」
「盛大にな」
「逃げ道を、完全に燃やすぞ」
「望むところだ」
胃は痛い。
だが、心は決まっていた。
北部の森へ。
無線ではなく、リオンは自ら足を運んだ。
リゼとルナの前で、はっきりと告げる。
「結婚しよう。中途半端じゃない。二人とも、正式な王妃として迎える」
一瞬。
風が、森を抜ける。
リゼは、目を瞬かせた後、ふっと笑った。
「……遅い。でも、ちゃんと王らしい答えね」
ルナは、まっすぐに頷く。
「狼族は、選ばれた事を誇りに思います。逃げなかった王を誇りに思います」
その瞬間。
精霊が、一斉に騒ぎ出した。
『やっと決めたー!』
『長かったね!』
『王妃誕生だー!』
完全に、お祭りモードだった。
結婚式は前代未聞の規模で行われた。
場所は、ガルリオン王都中央広場。
人族、エルフ、狼族、ドワーフ、獣人。
解放された者も、
古くからの市民も。
全員が、同じ場に立った。
王は一人。
王妃は二人。
それを、誰も否定しなかった。
否定できなかった。
精霊が空を舞い、聖獣が静かに周囲の空を守る。
神話と現実が、重なった瞬間だった。
誓いの言葉。
リオンは、はっきりと宣言した。
「俺は政治のために、人を選ばない。守ると決めた者を、守るために王でいる」
リゼは、微笑み。
ルナは、胸を張った。
二人の頭に、王妃の冠が載せられる。
その瞬間。
精霊が、一斉に囁いた。
「正式だね」
「これで文句言わせない」
「王、逃げ道ゼロ」
ガルヴァンは、遠くで頭を抱えていた。
「……ああ。議会が、地獄を見るな」
式の後。
リゼは、珍しく機嫌が良かった。
「よし」
「これで外から来る縁談は、全部“側室”になるわね」
ルナも、満足そうに尾を揺らす。
「狼族的には、完全勝利です」
リオンは、椅子に沈みながら言った。
「……胃は、痛むが……」
だが不思議と後悔はなかった。
王として。
一人の人間として。
リオンは、初めて“選び切った”。
その選択は、確実に国を揺らす。
だが同時に王の足元を揺るがぬものにしていた。




