第221話 外から来る縁談と、二人の本音
北部山岳地帯の森。
夕暮れの光が、木々の間を橙色に染めていた。
リオンは、焚き火の前に座っていた。
向かいにはリゼとルナ。
三人だけの、静かな時間だった。
風が、葉を揺らす。
精霊は、あえて姿を見せない。
話すべきことが、分かっているかのように。
「……王」
先に口を開いたのは、ルナだった。
「最近、王都が騒がしいと聞きました」
リオンは、苦笑して頷く。
「縁談だ。山ほど来てる」
「だろうな、とは思いました」
ルナは、静かに視線を落とす。
リゼは、しばらく黙っていたがやがて、淡々と告げた。
「正直に言うね、リオン」
「……ああ」
「腹は立つ」
即答だった。
リオンの肩が、びくりと揺れる。
「怒鳴りたいわけじゃない。嫉妬で暴れたいわけでもない。でも……」
リゼは、真っ直ぐに彼を見る。
「あなたが、“交渉材料”として扱われているのがすごく、気に入らない」
ルナが、小さく頷いた。
「私もです。狼族は、強い者に惹かれます。ですが……」
手を、腹に添える。
「外から来る縁談は、王の強さではなく。
王の“価値”を、数えている。それが、我慢ならない」
言葉は穏やかだが、芯があった。
「俺は……」
リオンが、言葉を探す。
「断るつもりだ。即答はしないが、本気で受ける気はない」
リゼは、少しだけ息を吐いた。
「それを聞けて、少し安心した。でもね……」
指を立てる。
「逃げるのも、違うと思う」
「逃げる?」
「ええ」
「“忙しいから”“今は無理だから”って」
「そうやって流すと、また同じことが起きる」
ルナが、静かに続ける。
「狼族なら、答えは一つです。選ばないなら、選ばないと示す。曖昧は、争いを呼びます」
沈黙。
焚き火が、ぱちりと音を立てた。
リオンは、頭を掻く。
「……二人とも強いな」
リゼは、小さく笑った。
「王の隣に立つなら、それくらいは必要でしょ」
「守られるだけの女は、もう終わり」
ルナも、穏やかに言う。
「私達は、王の“所有物”ではありません。ですが王が選ぶなら、その覚悟を共有したい」
リオンは、深く息を吸いゆっくりと吐いた。
「……分かった。俺は、はっきり言えないが外交のための婚姻は、受けたくない」
二人は、苦笑いしながら頷いた。
その夜。
精霊が、こっそりと囁いた。
『王様って面倒くさいね、二人を説得できるかな〜』
「うるさい」
だが胃の痛みは、少しだけ和らいでいた。
外から押し付けられる縁談より、目の前の本音の方が、よほど重く、そして、信じられた。




