閑話 武器商人Jと、Ω211だった頃
リオンの前世の話
薄暗い倉庫。
油と金属の匂いが混じる空間で、
男は木箱に腰掛け、煙草を指で転がしていた。
武器商人のJ。
そして、その向かいに立つのは、“Ω211”と呼ばれる男。
「なあΩ」
Jは、面倒くさそうに言う。
「お前、自分がどれだけ危なっかしいか自覚あるか?」
Ω211は、肩をすくめた。
「自覚してたら、こんな仕事してねぇよ」
「だろうな」
Jは苦笑する。
「前線に出るたび、“次は死ぬな”って言われる男は初めて見た」
「誉め言葉か?」
「嫌味だ」
Ω211は、倉庫の奥に並ぶ兵器を一瞥する。
銃。
弾薬。
試作品の迫撃砲。
「……J」
「俺が死んだら、これ全部どうする?」
Jは、一瞬だけ黙った。
「売る。金になる」
「それだけか?」
「それだけだ」
即答だった。
「俺達は、そういう立場だろ」
Ω211は、小さく笑う。
「相変わらず、割り切ってんな」
「感情持ったら、商売にならん」
Jは煙草に火をつける。
「それに」
一拍置いて。
「お前は、そう簡単に死なねぇよ」
「根拠は?」
「死神が付いてないからだ」
Ω211は吹き出した。
「理由が雑すぎる」
「雑なくらいが、現実的だ」
しばらく沈黙。
Ω211が、ふと真面目な顔になる。
「……なあJ。もし俺が、武器を置いて平和な国に行ったらさ。普通な生活が出来るかな」
「無理だな」
Jは、即答した。
「お前はな業を背負い過ぎてる……兵士にしかなれないよ」
二人は沈黙した。
Jは、煙を吐きながら言う。
「お前はな前に出て、責任背負う性格だ。しかも、根が優しい」
「……買い被りすぎだ」
「違う」
Jは、はっきりと言った。
「お前は、“逃げない”だけだ。それが一番、損な生き方だ」
Ω211は、何も言わなかった。
その後。
Ω211は死に、別の世界で“リオン”として生きている。
王になり、神の子だと言われ、胃を壊しながら国を守っている。
Jはリオンを見ながら……。
「ほらな。俺の言葉は正しかったな」
そして、武器の見積もりを叩きつける。
「でもまあ。生きてるなら、それでいい」
武器商人Jは、異世界でリオンを相手に商売をしている。




