やっぱり女子は怖い/黒曜の森の大騒動
「ねぇリョーマ? どうしてこんなに遅くなったの? 私ずっと待ってたんだよ?」
俺は正座させられていた。この世界にも正座の文化はあるんだなと、不思議に思っていたがどうやらオワリやヤマトの方から伝わってきた文化らしい。
向こうでは呼び方は少し違ったらしいが今では正座がメジャーな言い方になっている。
「いや、それはだな? 貴族の相手をしたり、暗殺者の襲撃があったりと色々とあったんだよ」
「……そう、ならいいかな。怪我してない?」
「どこも怪我はしてないよ」
「ならよし! それじゃあ改めておかえり!」
「ただいま。遅くなってゴメンな?」
「うん、許してあげる」
笑いあって何とか穏便に済ませることができた。ヒヤヒヤとしたが機嫌を直してくれて助かったな。
「今度マギルサードのスイーツ奢ってね?」
……どうやら俺の財布は無事では済まないらしい。この街のスイーツを一通り食べるまで、俺の財布の紐が締まることはないのだろう。
……小遣い稼ぎにこの街の冒険者ギルドに登録してこようかな? 簡単な討伐依頼なら何とかなると思うし。
うん、割とそれがいいかもしれない。
明日辺りに行ってこよう。
♢♢♢♢♢
sideベルギル
時間は少し遡る。
「ここが黒曜の森か~中々いい感じに薄暗いじゃん!」
ニヤニヤと薄気味悪く笑う女悪魔は早速森へと入っていた。
ベルギルはあの後、本の能力を理解してその悪辣極まりない性能に、流石はオルフェリアだと笑い転げた後、そのまま黒曜の森を訪れていた。
「しっかし、まさか現世にこんないい場所があるなんてねぇ。ここを住処にするのも面白いかも!」
彼女は喋り続ける。
たった1人で喋り続ける。
「でもなぁ。正直この程度の仕事ならアロンザとかミードにやらせれば良かったのに……この仕事受けちゃったのは失敗だったかな?」
草むらをかき分け、枝を避けて歩く。
そんなベルギルの両腕は鮮血で真っ赤に染まっていた。
「しっかしこの森も面白いなぁ。この私を見ても恐れずに突っ込んでくるなんてねぇ。ちょっと危機感が足りないとしか思えないけどね?」
ベルギルの通った道には大量の魔物の死骸が転がっていた。それはまるでゴミのようで、それでいてそこにあることこそが正しいかのように無造作に置かれていた。
枝に突き刺さり臓物が腹から飛び出ている死体や、どんな魔物だったのかも分からないほどぐちゃぐちゃに破壊された死体などが散漫し、目を覆いたくなる光景がそこにはあった。
「でもこれも仕事だからねぇ。それにやるって言っちゃったし、……あなたはどう思う?邪神様?」
「ほう? 気付いていたか。中々の感覚を持っているな」
「まぁね? 流石にそんなに殺気を撒き散らされたら分かるよ? お仲間もそんなに引き連れて……殺していい?」
「……抜かせクソガキ、この森は今では俺の支配地よ。たとえ誰であろうと侵入者は殺すのみ! ……だが貴様が相手ではこやつらは死ぬだろうよ」
「当然じゃない? 不死にはなりかけてるけど私に勝てる程の力を得られる訳じゃないからね?」
不死とは、はっきり言ってしまえば死ななくなるだけである。確かにそれでも普通の人間にとっては素晴らしいものに映るのだろう。しかし実際はたとえ不死だろうと殺しようはある。
例えば肉体ではなく精神を先に殺す方法。これならその不死者はただ生き続けるだけの人形に成り下がる。
やりようなんていくらでもあるのだから。
「でも驚いたよ! まさか邪神様に会えるだなんて夢にも思わなかったもの! これはオルフェイアに感謝しなくちゃね?」
「御託はいい。貴様はここで死んでいけ。安心しろ、貴様の骸は有効に使ってやろう」
「え~こんなに可愛い子なんだからちゃんと弔ってよね~まぁどうでもいいけどさ。そもそも死んだ後のこととか考えてもしょうがなくない? 意味あるの?それ」
「これだから悪魔は……まぁ悪魔の身体なら実験体としては充分か。であれば早速始めよう。では死に絶えろ」
ガクリと力を失って糸の切れたあやつり人形のように倒れ伏す。しかしその直後には何事もなかったかのように気だるげに起き上がる。
「いきなり殺すなんて酷いなぁ~しかし久しぶりに殺されちゃった。流石は邪神様だね」
「蘇生か? いや、予備の魂に切り替えたのか。器用なことだ。まぁそれも不死の形の1つよな」
「キャハハハハハ!!! バレちゃった! 一目で見抜くなんて流石だね! じゃあ今度は私の番でいい?」
「構わんぞ? 貴様は永劫の苦痛の中に沈めてやろう。光栄に思うがいい」
「キャハハハ! 傲慢だなぁ。確かに傲慢は上位者の特権だけど慢心に転じたらそれはただの馬鹿だよね!」
「そうか? 支配者たるもの常に余裕を持たねばならん。ならば貴様のような無知な輩を払うのにいちいち全力を出すこともあるまい? 断言してやろうか? この場において今貴様は餌だぞ? 自分の立場さえ理解できぬ程蒙昧な輩であったか? であれば失せるがいい。俺の前に立つことすら許されんぞ」
「……生意気だなぁ。そんなに死にたいの?」
ベルギルの顔から表情が消え失せる。その瞳は黒く濁り、闇深い深夜のようにも思えた。
この日、“黒曜の森“の3割が消え去るという大事件が発生した。オワリは調査達を派遣したらしいが帰ってきた者はおらず、以来この森は悪魔が住まう森と恐れられるようになるが実際に住んでいるのは悪魔なんていう存在どころではないことをまだ誰も知らない。




