四つ巴の終わり
高熱が辛い……38度5分とかまじで?
何だこの状況!?
こんな面子が暴れ回ったらこの街は無事じゃ済まないぞ!?
「……ショゴスだと!? 何でお前がここに居る! お前は僕が確かに封印したはずだ!」
ナルナが困惑したように叫ぶ。
それが真実なら確かにこいつがここに居るのはおかしいだろう。
「ッ! ショゴス! 今すぐ引き返せ! お前は邪魔だ!」
再度ナルナがショゴスに向かって叫ぶ。
しかし当のショゴスは意にも介さず触手を撒き散らす。
それは黒い嵐のように周辺被害を撒き散らした。
間一髪触手の群れを躱して、全力で距離をとる。
そして、かなり離れてから改めてショゴスをよく見る。
全体的に真っ黒な身体に、あちこちに目や口がある。
そして身体の内側には無数の悪魔が閉じ込められている。
いや、食われたのか。
所々溶けているため普通に見た目が怖い。
「ッ! ショゴス! お前ぇぇぇ! よくも僕の部下達を!」
ナルナがこの場にいる全ての敵を無視してショゴスに向かっていく。
その速度はとても速く今までがまるで手加減していたと思える程だった。
しかし魔力の使い方が荒すぎる。
あれではすぐに魔力が切れるだろう。
自滅覚悟の突撃。
覚悟はいいがそう長くはもたないだろうな。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
身を引き裂くような絶叫を上げていくつも火球を放つ。
そしてショゴスは爆炎に包まれる。
粉塵がここまで届くことからとんでもない威力がある事が分かる。
しかし全く効いてないのか触手の群れが迫ってくる。
視界を覆うほどの触手が。
俺の真横を通過して何かが飛んでいく。
そして背後にあった家屋に叩きつけられる音も聞こえる。
恐る恐る振り返ると両腕と右脚が変な方向に曲がっているナルナがいた。
要するにあのとんでもない速度で移動するナルナに攻撃を当ててここまで吹き飛ばしたのだろう。
まぁ流石にあんな量の触手を躱しきるのは不可能。
しかしナルナの様子からあの触手にはとんでもない攻撃力がある事が分かる。
正直俺が妖精達の魔力で身体強化しても躱すのは限りなく不可能でしかない。
「舐め……やがってぇ……」
ナルナが怨嗟の声を上げて立ち上がる。
その時には既に身体の負傷は見る影もなく修復されている。
流石は悪魔だと言える。
そしてナルナは不敵に笑った。
魔力も再度暴走寸前まで高められる。
「”踊れ! 我らは蹂躙者! 光の当たらぬ者共よ! その血肉を我に捧げよ! さすれば道は開かれる! 今こそ絶無の狂宴を!”『デビルズパーティ』!」
ナルナの足元に紫の魔法陣が広がる。
これもゴデアと同じ黒魔術なのだろう。
しかし生贄はどこだ?
黒魔術は生贄を捧げて魔力消費を抑え、異界から魔物や悪魔といった怪物を召喚するための魔法。
つまりは生贄が居ないと機能しないはず。
でも魔法はしっかりと発動しているな。
一体どういうことだ……?
するとナルナの左腕は魔法陣と同じ紫色の光に包まれると毛糸が解けるかのようにするすると消えていく。
……まさか自分の腕を生贄に!?
まじかこいつ!
「ふっははははは! どうだ! これが俺の覚悟だ!」
魔法陣から大小様々な悪魔達が現れる。
鶏頭の悪魔や爪の長い悪魔、そして鼠のような悪魔や象のように巨大な悪魔。
そんな悪魔達が現れては全員がナルナに頭を下げていた。
「さぁお前ら! 俺のために死ね! 敵は最高の失敗作、ショゴスだ! しかしお前達なら何とかできるだろう! 僕はそう信じている!」
「「「「「おおおおおおおお!!」」」」」
歓声が空気を揺らす。
それはまるで声が爆発したようにも思えた。
「ナルナ様! ショゴスなど我らの敵ではございません! 私が見事討伐してみせましょう!」
ナルナの前に立ちそう宣言したのは右腕だけが大きくなっている、二本の捻れた角を生やした悪魔だった。
「できるのか? セルネス」
「もちろんにございます! このセルネス! ショゴスを殺すなど簡単にございます!」
「そうか……なら任せたぞ。僕は腕を作り直さないといけないからな……」
そう言うとナルナはドカリと座り込み左腕の付け根を紫色の魔力が覆い始めた。
恐らく言葉通りに左腕を作り直しているのだろう。
流石は悪魔といった所か。
「では行くぞ! このセルネスに続け!」
「「「「「おおおおおおおおお!!」」」」」
全ての悪魔が飛び上がりショゴスへと向かっていく。
「これは壮観じゃのぉ。悪魔の軍勢なんぞ久々に見たわい」
「全くだ。まぁ我はルガロンの眷属であるやつらを気にかけてやる必要は一切無いのでな。我らは我らで殺し合うか?」
「私と妖精王を同時に相手して勝てるとでも~?」
こちらも一触即発の雰囲気になっている。
あまりここには居たくないな。
まじで死にかねん。
「まぁいい、我はそろそろ帰らせてもらおう。こんな所で時間を無駄にはできんのでな」
「おや~逃げるんですか~?」
「邪神ともあろう者が臆病じゃのぉ」
「好きに言うがいい。しかし追いかけて来るなら命はないと思うがいい」
そう言うとテュポーンは突然真っ黒な翼を背から生やし、フワリと浮き上がる。
「待てよ邪神!」
ナルナがテュポーンに声を掛ける。
この状況で声を掛けるとはかなり勇気があるな。
「……何だ悪魔よ。我は忙しいのだ。邪魔をしてくれるなよ」
「黙れよ、僕の部下を返せ!」
まぁテュポーンの身体を取り返すのがナルナの目的だからな。
当然と言えば当然だろう。
「はぁ……全く、貴様の部下の魂は既に存在しないのが分からんのか?」
「……知ってるさ。お前がゴデアに干渉して生贄にしたんだろう? そのおかげでゴデアはもう存在しない。それはもう分かってる。だからと言ってな、部下の仇ぐらいは撃つさ」
「愚かだな。貴様では我には勝てんよ。相手との実力差も分からんのか?」
テュポーンが魔力を解放する。
あまりの高密度な魔力は可視化していた。
その魔力は周辺の建築物を根こそぎ吹き飛ばし、辺りを更地に変えた。
魔力の放出だけでこの威力とは……ヤバすぎるだろ。
「……分かってるさ、だがゴデアは僕が生まれた時から仕えてくれた大事な部下だ! 理屈じゃないんだよぉぉぉぉ!」
ナルナも魔力を解放する。
しかし、
「がはっ!」
突然血を吐いて倒れた。
確実に魔力の使いすぎだろう。
あれだけ高密度な魔力を使っていたらいずれ自分の身体も傷つける。
分かりきっていたことだ。
「何だ自滅か? ……全く、くだらん事に時間を使ったな……」
「ッ待てテュポーン! まだ勝負は!」
それがナルナの限界だった。
白目をむいて地面に倒れる。
呆気ない勝負の終わりだった。
「……まぁいい、では貴様ら、我を追い掛けて来るなよ? その場合は辺り一面を吹き飛ばしてやろう。我らは相応しい戦場で殺し合うべきだからな? クッハハハハハ!」
その物言いに顔をしかめるオベイロンとエリクシール様だったが流石にこの街で戦うのはまずいと思ったのか特に何も言わなかった。
テュポーンはニヤリと笑うと翼を大きく拡げて一瞬で飛び去った。
「テケリ・リィィィィィィィ!」
「「「!!!」」」
そうだこいつを忘れてた。
狂気の王、変幻自在の怪物。
ショゴスの存在を。
「……リョーマさん〜私はショゴスをどうこうすることはできません〜この世界で生まれた物はこの世界の住人が何とかするルールですので〜」
「わしもこれを討伐するのはルールから外れているので不可能じゃのぅ。せめて神が関わっていれば手の出しようはあったのじゃが……あぁそうじゃ! とりあえずこの子達は返すぞ!」
そう言うとオベイロンは魔力をかき集めていとも簡単に異空間へと繋げてしまった。
そしてそこから先程テュポーンに負けた妖精達が現れた。
「ただいまー」
「大丈夫だったー?」
「生きてるー?」
「戻って来れたよー」
「……ごめんなさい」
メアは凄い落ち込んでいたので頭を撫でてやると途端に嬉しそうに微笑んだ。
他の妖精達も撫でて欲しそうにしているので撫でてやると全員が笑った。
さてここからどうしようか。
「あ~そう言えばリョーマさん~あのショゴスは意思がありますよ~」
え? それってつまり……超会話が使える?




