邪神
何かすっごい筆が進んだw
今回ちょっと長めです。
少しはスランプ脱出できたかな?
「残念だったな。ここに俺がいる限り貴様らは絶対に勝てん。これは決定事項である」
声と魔力ははゴデアのまま、しかしその力と殺気は比べ物にならなかった。
これは死んだ。
助かる余地はない。
虫けらのように、路傍の石のように蹴散らされる未来しかない。
こいつは相手にしてはいけない。
「アリス! 全力で逃げるぞ!」
「はぁ……えぇ分かってる!」
アリスが苦しそうに呼吸をしている。
流石にアリスに先程の一撃はきつかったか。
「この俺を前にして逃げられるとでも? それは許さん。絶望の果てに朽ちるがいい! それが貴様らに許された運命よ」
哄笑を浮かべ嘲笑う。
お前達に希望は無いのだと。
死こそが運命なのだと。
「くっ!」
軋む体を酷使してアリスも抱き抱え走り出す。
「どこへ行く?」
そして目の前に回り込まれた。
「がはっ!?」
アリスごと不可視の何かに吹き飛ばされる。
2、3回地面を跳ね転がり既に廃墟となった家に叩きつけられた。
「リョーマ!」
「大丈夫!?」
「しっかりして!」
「負けないで!」
「早く逃げて!」
メアですらいつものようにのんびりと話さず叫んでいる。
でもこれは無理だろう。
あまりに強すぎる。
人間がどうこうできる範囲を超越している。
「絶望せよ、貴様らに希望は無い。喚くがいい! 断末魔を上げろ! その魂を我に捧げるがいい!」
「やらせない!」
「ここは私達が!」
「リョーマは早く逃げて!」
「何秒持つか分からないよ!」
「ここは何とかするから!」
妖精は死ぬことがない。
あまりにダメージが大きいと自動的に妖精の国へと送還される。
だから殿としてこれ程優秀なものはないだろう。
しかし復活にはそれなりに時間がかかる。
俺達が逃げられる程時間を稼げなければそれも無意味になる。
「無駄だとなぜ理解できない? 死を受け入れろ。それは必定よ。貴様らがいくら群れようとこの我には決して叶わない。それがなぜ理解できない?」
邪神と呼ばれたものは本当に不思議そうな顔をしていた。
なぜ抗うのかが理解できないようだった。
これはヤバすぎる。
まず俺達は敵としてすら見られていない。
「まぁいい。我の前に敵として立つ、その意味は理解していような?」
酷薄な笑を浮かべテュポーンは残酷に、冷酷に言葉を紡いだ。
たった一言。
「死に絶えろ」
妖精達が消えた。
まるで霧にでもなったかのようにその場から消えた。
「まぁこれでしばらくは出てこれまいよ。さぁ祈りの時間だ。魂を頂こう」
あくまで義務的だと分かる口調で宣言する。
意味が分からない。
俺は軽いパニックに陥っていた。
これは一体なんなんだ。
こんなものが存在していてもいいのか。
「うん? これは……なるほど、少年、さてはエリクシールのお気に入りか。さてこれでは『宣告』が使えないではないか。全く面倒な」
「まぁ隣の少女は違うようだし関係はないな」
一方的な通告。
最早会話をする気は無いらしい。
「では少女よ、死にたっ!」
急にテュポーンが後ろに飛びずさった。
そして一拍遅れてテュポーンがいた場所に光の弓矢が突き刺さった。
「エリクシールか……面倒なことだ。まだ存在していたとはなぁ」
今のはエリクシール様の攻撃らしい。
まぁ弓矢からはエリクシール様と同じ神性を感じるから間違いないだろう。
その時だった。
いきなり現れた黒いローブを着た男がテュポーンにナイフで攻撃を仕掛けた。
しかしナイフは金属音を立てて弾かれた。
それに反応してテュポーンがハエを払うかのように腕を振るうと男は肉塊になって死んだ。
「カール! 貴様よくも!」
隠れて見ていたのか裏路地から声が上がった。
そちらを見ると首から冒険者のドックタグをぶら下げた男女がいた。
間違いなく冒険者だ。
「デニール! 落ち着いて!」
「落ち着けるかよ! カールが殺されたんだぞ! 黙って見てられる訳ないだろ!」
それが冒険者達の最後の会話だった。
「死に絶えろ」
ドサリと冒険者達が倒れ込む。
さっきまであった冒険者達の魔力も消えている。
あの冒険者達は死んでいる。
あいつは、テュポーンは喋るだけで人を殺せる。
こんなの勝てるわけがない。
「おいっ! これはどういうことだ!」
怒りに震える声が空から聞こえてくると同時に少し離れた場所に何かが降ってきた。
そして粉塵が晴れるとそこにはこの大惨事の元凶、悪魔であるナルナがそこにいた。
「その身体は僕の部下の身体だ。お前が何者かは知らないが返してもらうぞっ!」
「ふむ、察するに貴様はこの身体の関係者か? だとしても貴様にどうこう言われる筋合いは無いぞ。この身体は持ち主が自ら手放したのだ。我はそこに入り込んだだけに過ぎない」
「何? それはどういう……」
「居たぞ! 悪魔だ!」
「子供も居るぞ!」
「早く助けるんだ!」
ナルナの背後からこの国の騎士達が近づいてくる。
でもこれはやばい!
「逃げろ! 殺されるぞ!」
「死に絶えろ」
再度終わりの言葉。
騎士達が全員言葉通りに死んで行く。
「実に下らん。これが我を封印した人間達だと? ここまで弱くなっているとはな……」
「封印だと? つまりお前は部下の身体を依り代に一時的にこの世界に出てきているということか?」
「ほう、よく理解できたではないか、その通りよ。我は封印を解いたのでは無い。この身体を依り代に動いているに過ぎんのだ」
後ろで騎士達が死んだことを全く気にせず会話をしている。
彼らにとって人間の命なんてどうでもいいのかも知れない。
「なるほど……封印された神か……お前の正体に心当たりがあるぞ。お前邪神テュポーンか」
「その通りだ。我は魔物達の創造主、怪物達の神、邪神テュポーンである」
「へぇ、実在したのか」
「まぁその通りだ。では分かったなら退くがいい。我はこの人間達を殺さねばならん」
「別に僕がここに居ようと関係ないだろう。まぁ僕は退くつもりは無いよ」
「……何のつもりだ?」
「言っただろう、その身体は僕の部下の身体だ。断じてお前の身体じゃない」
「……愚かだな、なぜ理解できぬ? 我は邪神、神の一人であるぞ。貴様ごときが我に逆らって生きてられるとでも? それがありえないと理解できないほどの馬鹿ではあるまい?」
「大切な部下をまるで道具みたいに扱われてはいそうですかなんて言うとでも?」
「……くだらんなぁ、実にくだらん! この世は強者こそ全て! 弱者を思いやるなど! 貴様それでも神に逆らう悪魔か!?」
「お前の時代とは色々と違うのさ。今の時代では悪魔は年々その数を減らしている。その状況で仲間なんてどうでもいいなんて言うやつがいるとでも思ってるのか?」
つまりこれでも昔より少なくなったってことか。
ならこれだけの数の悪魔を用意するのも一苦労だろうに。
「そうか……ルガロンの眷属たる貴様らが墜ちたものよなぁ……」
「あ?」
邪神ルガロン。
悪魔達の創造主であり他にも十二の怪物と呼ばれる世界中で絶大な被害を出した魔物を造った神でもある。
その内三体が討伐され五体が封印、そして四体が行方しれずである。
「ふん、ルガロンの眷属である貴様らを殺すつもりはなかったのだが……まぁいいだろう。せめてもの慈悲である。貴様の大事な部下であるこの身体で手ずから殺してやろう」
「やってみろよ、時代遅れの遺物風情が!」
膨大な魔力がぶつかり合い空間が歪み始める。
もうあまりこの空間に居たくはないな。
とりあえず今はアリスを連れて逃げる。
流石にこの状況で戦闘は行えない。
「──まぁ待ってくださいね~」
「は?」
今アリスからとんでもなく気の抜けた声が漏れ出た。
そしてそのアリスからはかつて感じたことがある神性が感じられた。
それは間違いなく俺が大恩のある女神にして唯一神でもあるエリクシール様その人だった。
「久しぶりですねぇ~リョーマさん。まぁ邪神の気配を感じたのでとりあえずアリスさんのお身体を借りています~」
「エリクシール様!? ほんとにお久しぶりですね? 今まで何してたんですか?」
「まぁ色々ですね~ちょっと地球からこの世界に呼びすぎたせいかこの世界と地球が次元的に近くなっちゃったんですよ~そこら辺の調整で忙しくて~」
「そうだったんですか……」
エリクシール様が来てくれたお陰で心理的に余裕が出てきたのかもしれない。
「まぁとりあえず危ないので離れていてください~」
そう言ってのんびりと、散歩でもするかのようにナルナとテュポーンに向かって歩き出す。
「久しぶりですねぇ~テュポーン。今度こそ殺しに来ましたよ~」
「久しいなエリクシール。その気持ち悪い喋り方は相変わらずか?」
「そっちこそ、その自己中思考は全く変わらないですね~」
「強者こそ全て、弱者など餌に過ぎんよ」
「そんなこと言ってるから人間に封印されたのでは~?」
「あぁその通りだ。だが私は学んだ。初めから雑魚だと侮っては負けかねない。故に相手が誰であろうとまずは力を試すことが大事なのだとな」
敗北から学べることは多い。
しかしそれが神にも当てはまるとは思わなかったな。
「あなたが何かを学ぶとは思いませんでした~」
「我自身も意外に思っているとも。まさかこの我が人間に負けるとは思ってもいなかったからな。我ら神は全能ではない。故に敗北もありえないことではないのだとな。ならばどうするべきか? 簡単であろう? 全能になればいいのだ。そのための方法は既に見つけている」
「……全能ですか~? そんなものが存在するとでも?」
「存在するとも! 全てを超越し! 万象を見定める! 全てを知り、全てを掌握する! これを全能と言わずになんと言う!?」
それは確かに全能と言える代物だろう。
いや、神ですら超えている。
神ですらない何かだろう。
神は全能では無い。
死にもするしできないことだって多い。
それでも神と呼ばれるのはたとえ死んでも記憶は同じまま生まれ直すため実質不死であることと人間とは次元の違う存在であると理解しているからである。
しかし目の前の邪神ではそれでは足りないと言う。
人間と次元が違う程度では足りないと言う。
「相変わらず傲慢ですねぇ~私達神はそこにいるだけの存在でしょう~? そうあれと世界に造られた存在でしょう~?」
世界に造られた?
神様を? どういうことだ?
「我はそれが気に入らんのだ! 我はこの世界を作り直す! 愚かな世界などに従うつもりは毛頭ない! なぜ分からん!? なぜ拒む!? この世界は明らかに失敗している! 我らの声を聞かない人間共! 世界の奴隷であることを受け入れる妖精共! 作り直すのだ! 我らこそが全てである世界を! 神々が正しく支配する強者だけの世界を!」
空に手を掲げ、天に向かって唄う。
「この世界は転生する! それこそが我らの望み! 我らはこの間違いを否定する! 称えるがいい! 我らの偉業を! 世界を正しい姿に! 準備は整った! これより我らが計画は実行される! フハハ、ハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
邪悪な哄笑を上げる。
望みを叶えるために全てを犠牲にする比類なき覚悟。
テュポーンにはそれがあった。
しかし俺は、俺達人類はそれを望まない。
「それはあなたの望みでしょう~? あなたの独りよがりに人類を付き合わせないでください~」
まさしくその通りだろう。
誰が頼んだわけでもないのに俺達を巻き込みやがって!
「別に我一人の望みというわけでは無いがな。さっきも言ったろう? 我らの望みだと! 我らの偉業だと! この世界には無駄が多すぎる! 正さねばならぬ、我は神である! 世界の管理こそ我が仕事ではあるが間違えた世界など管理する気も起こらぬわ!」
何? つまりこいつには協力者が居るってことか?
こんな馬鹿げた計画に誰かが賛同したってことか?
「どうでもいいな。それよりもその身体を返してもらうぞ!」
ナルナが急に走り出しテュポーンに向かっていく。
「来るがいい愚かな悪魔よ! 貴様も我の新世界には相応しくない! ここで終わらせてやろう!」
「テケ…………」
「……ケ……リ」
「テ……リ・リ……テケリ・リ! テケリ・リ!」
「テケリ・リ!」
狂気は躍動を始めた。
目指すは悪魔の群れ。
かつての自分の創造者。
今エスゲルに狂気の具現が迫っていた。
感想などくれると作者のやる気に繋がりますw
テケリ・リ!




