悪魔
あの後アリスがルイに目的地が一緒なんだから一緒に行かないかと誘ったがこれ以上迷惑をかける訳にはいかないと断られた。
アリスは残念そうにしていたがまぁしょうがない。
本人が断ってるのにしつこく誘うのも違うだろう。
ルイは俺達の出発時間の2時間後に出る隣町行きの馬車に乗るそうだ。
普通ならそれが普通だ。
俺達みたいに1本の馬車で行けることが恵まれているのだ。
そして出発時間になるまで街で時間を潰しているとついに時間になった。
「先に待ってるわ」
「えぇ! すぐに行くわ!」
アリスとルイはこの数時間でかなり仲良くなったらしい。
まぁいい事だな。
アリスの友達はちょっと変わり者が多すぎる。
常識人の友達は俺とフェイくらいだったと思う。
それに比べてルイは常識的で助かる。
最近のアリスは少し無茶が目立つ。
昨日のこともあるしアルベインでも何かある度にその近くにいて首を突っ込んでいた。
見ていて気が気じゃないから自重して欲しいのだが。
「リョーマもありがとうね」
「? 俺は何もしてないぞ?」
「私の思い上がりを正してくれたじゃない、それだけでも有難かったのよ」
「……おう」
眩しいほどの笑顔でお礼を言われた。
一瞬見とてしまったのは内緒だ。
アリスが隣から不満そうに睨んでくるが気づかないふりをしておこう。
「行くぞ坊主達」
オーエンさんから声をかけられた。
もう出発するらしい。
そしてガラガラと音を立てて馬車が進み出す。
……まぁ最後に一言くらい言っておこうかな。
「待ってるぞ」
「! うん!」
ルイは見えなくなるまでずっと手を振っていた。
あれだけやる気に満ちていればきっと合格出来るだろう。
やる気が空回りしなければな。
あいつだとやりかねない。
俺の中でルイはリアナと同じ残念ポジションに収まっている。
リアナみたいに方向音痴な訳じゃないがルイも頭に血が上ると周りが見えなくなって色々やらかすようだ。
残念と言っても何も問題じゃないな。
「……ルイ随分嬉しそうだったね」
「そうか? どの辺が?」
「……ふん」
アリスは拗ねたように顔を逸らして毛布を被って横に転がった。
顔を見せないように後ろを向いているがあれは不機嫌な時の反応だ。
何故いきなり不機嫌になっているのかは分からないがとりあえず機嫌を取っておく必要がある。
「マギルサードのスイーツ」
ピクっとアリスが反応する。
もう一押しかな。
「買い物も付き合う」
またピクっと反応する。
まぁ買い物に付き合うと言っても荷物持ちだけどな。
女子の買い物は量が凄く多い。
荷物持ちは大変だがずっと機嫌が悪いよりマシだろう。
「……分かった」
まだ何も言ってないけどな。
機嫌が悪い事を隠すために後ろを向いていたんだろうが意味が無いな。
まぁアリスもバレることは分かってただろう。
それなりに長い付き合いだ。
お互いにある程度の理解はある。
「ちゃんと買い物付き合ってね」
「おう、約束したからな」
途端に機嫌が良くなる。
さっきとは違い満面の笑顔を浮かべていた。
なんというかアリスは凄く顔に出やすい。
演技とかは絶対できないタイプ。
そんな事を考えながらぼ~っと外を眺めていると突然地中で魔力が活性化してそれがどんどん近づいてくるのが分かった。
即座に戦闘態勢に入る。
一拍遅れてアリスも気づいたようで同じように戦闘態勢をとる。
「オーエンさん! 馬車止めて!」
「なに!? 何があった?」
馬車が止まるのを待たずにある程度減速したら飛び出す。
それと同時に馬車の目の前から巨大なミミズのような魔物が地中から飛び出てきた。
死のミミズ。
地中の中に住み着き振動を探知して飛び出すミミズ。
普通のミミズと違うのは円状に配置された鋭い牙だろう。
ミミズの大きさは約25メートル程が通常の大きさというかなりの大きさを持つ魔物だ。
それが吠えた。
いや、吠えたというのは正確じゃないかもしれない。
うるさ過ぎて他の音が一切聞こえない。
まぁ関係ないな。
俺は10年間の修行の結果下級魔法までは無詠唱で発動できるようになった。
ファイアーボールが死のミミズに向かって飛んでいく。
ファイアーボールは俺が最初に妖精から習った魔法だが今でも使っている。
初級魔法であるファイアーボールはあまり注目されず、使われることも少ない。
しかし俺は魔法に妖精の魔力を込められる。
その結果生み出されるのは10メートルの巨大な火球。
それを大きく開けられた口の中に放り込む。
すると死のミミズは身体の内側から弾け飛んだ。
なんとも呆気ない結末。
本来ならその結果にアリスとオーエンさんが呆れつつも先に進むはずだった。
近くの草むらから声が聞こえてこない限りは。
「馬鹿な! 死のミミズをあんなガキが一撃で!?」
声の方向見るといつの間にか男がいた。
それは朝の朝食の時にアリスに投げられた男がった。
「クソっ! これじゃあ計画が台無しだ!」
「その話もっと詳しく教えてくれ」
聞き逃せない単語が聞こえた。
計画? まるで死のミミズが出てくるのを知ってたように聞こえる。
「誰が言うかよ!」
そう言うと男は首にかけてた石を握って砕く。
すると周りからまた別の男達が現れた。
「おいクルガー! どうなってんだ! なんでこんなガキが死のミミズを仕留められるんだよ!」
「俺が知るかよ!」
なんか喧嘩してるけど俺の知ったことじゃないな。
身体強化でクルガーと呼ばれていた男を殴る。
若干上から殴ったから後頭部を地面に打ち付けたようだ。
そしてすかさず持ってたナイフを他の男の太ももに投げる。
太ももに投げたのはアリスが人の死に慣れていないから。
両親を目の前で殺されたアリスにとって死そのものが軽くトラウマになっている。
余裕がなかったらこんな事は出来ないがアリスと男達はそれなりに距離がある。
まぁ大丈夫だろう。
いざとなればアリスも自衛くらいは出来ると思う。
「こいつ強いぞ!」
「囲んで殺せ!」
「魔法打ち込め!」
囲まれるが全く意味が無い。
その状態でも余裕で戦える。
というか連携が出来て無さすぎる。
「”冒涜の小悪魔は嗤う、嘆きを餌に! 誘惑を唄う翼無き悪魔よ!”『インプ』!」
一番遠くにいた魔法使いらしき男の詠唱はその男の傍に黒い魔方陣を出現させた。
「召喚魔法!? また珍しい属性を! しかも悪魔か!」
召喚魔法は事前に魔物や霊獣、魔獣や幻獣などと契約しておく必要がある。
この男は悪魔と契約したのだろう。
3大最強種の1つである天使と相対する種族である悪魔だが、3大最強種では無い。
3大最強種は天使、妖精、竜なのだ。
悪魔は魔界で人類の欲などを糧に産まれて人類の魂を喰らう。
その結果転生できる者が減ってしまったため唯一神エリクシール様は悪魔を殺すための存在である天使を造った。
天使は悪魔に対して特攻を持っている。
しかしこの世界はバランスが大事だ。
それを理由にとある大悪魔は世界に直接干渉して天使に対する特攻を全ての悪魔に付与した。
そして数1000年前天使と悪魔による大戦が勃発した。
なんとか天使が勝ったらしいが悪魔は絶滅した訳ではなく魔界に逃げ込みたまにこの世界に出てくるのだ。
インプはその悪魔の1種でその中でも最弱と言われるがそれでも普通の人間よりも強い。
そして現れた黒髪黒目の男だった
しかしその悪魔は羽がなかった。
「へぇ~面白そうなことになってんじゃ~ん♬︎」
「ナルナ! あのガキを殺せ!」
「僕の名前をそう気軽に呼ばないで欲しいなぁ♬︎ ん?」
その時初めて俺に気がついたのかようやく俺を見た。
その瞬間ナルナという名前の悪魔は青ざめた。
「おい契約者! なんだあいつは!」
「知るかよ! だがとんでもなく強いガキだ! さっさと殺せ!」
「ふざけんなよっ! あいつの気配は忌々しいあいつの気配そっくりだ!」
「いいからやれ!」
「お断りだ!」
そう言うとナルナは契約者である男の腹を自分の手で貫いた。
「な! お……まえ……」
力なく倒れた男の魂を引きずり出すとナルナは周りの男の魂も全て引きずり出すとそれを食べた。
そして止める間もなく魔界への扉を開き魔界へと帰って行った。
「なんだったんだ……」
死屍累々の光景がそこに転がっていた。
「……リョーマ、死体を焼くのを手伝ってくれ」
「……はい」
死体をそのままにしておくとゾンビ化する事がある。
ゾンビ化に必要な条件は強い未練。
しかし大抵は理性を失い暴れるだけのアンデッドになってしまう。
そうならないように死体はなるべく焼くのが決まりだ。
「この事は次の街で冒険者ギルドに報告するぞ」
「えぇ、それがいいでしょうね」
この作業はアリスにはやらせられない。
あいつはこういうのトラウマだからね。
「……行くぞ」
「はい」
死体が燃えきるのを眺め終えて馬車に乗る。
案の定アリスの顔色は良くなかった。
「……大丈夫か?」
「……大丈夫……心配しないで……」
重い空気を背負い次の街に向かって馬車は再度進み出した。




