森の民
遅れてすいません。
モチベーションが最近まで過去最低でして……
あの後アリスの部屋に戻ると泣き疲れたのか少女は眠っていた。
というか今更だけどこの子1人で来たのかな?
さっきの話で魔法学院に行くって言ってたから確実に目的地は一緒だ。
確か俺達の年齢だと来る時は保護者同伴が義務ずけられているはずなんだけど。
「なんか親の事とか言ってた?」
「いや? なんで親?」
「来る時は保護者同伴だろ? いなかったらそれは問題になる」
「そう言えばそうね」
その反応を見るにどうやら聞いてはいないようだ。
というか本当に一緒には来てないかもしれない。
あれほど騒ぎになったのだから親がいるなら探さないとおかしい。
しかしこんな少女がこの街に一人で来れるものなのだろうか?
というかどうやって来たのだろう。
「まぁとにかく今日は私の部屋で預かるわ」
「分かった、よろしく頼むよ」
アリスなら任せても問題ないだろう。
何かあっても大丈夫だろうしな。
「じゃあ俺はもう寝るよ、おやすみ」
「おやすみなさい」
アリスの部屋を出て俺の部屋へと戻る。
明日の出発時間は昼食を食べてからの出発になっている。
もうちょっと寝るのが遅くてもなんの問題もないだろう。
そう思って俺が着ているローブの内側に隠してあったあの銀の腕を取り出す。
この腕はとても不思議だ。
手に持っても発泡スチロールくらいの軽さなのにその硬さは振り下ろしたナイフが欠けるほどの強度を持っていた。
そしてこの腕そのものとは関係ないがあまりに綺麗すぎる断面。
そしてその断面から見える歯車などの機械的な部品。
確かこの腕は1000年前の人形師が作った人形の腕なんだっけ?
1000年前にこんなのが作れたのか?
そしてこの切断面は普通じゃない。
あまりに綺麗すぎる。
一体どうやって斬ったらこんな切断面が出来上がるのだろう。
どんな素材で出来てるかも謎だ。
この軽さでとんでもない硬度を持つ鉱石なんて聞いた事も無い。
つまりこの腕については調べてはいるものの何一つ分かったことは無い。
女神様に聞いてしまおうかと思った事もあったが修行中の5年間会ったことは無い。
正確には会いに行ったが神界には行けなかった。
あそこに行くにはエリクシール様に呼んでもらう必要がある。
行けなかったという事は呼ばれてないのだろう。
なんか悲しくなってくるが女神様だって忙しいのだろう。きっと……
まぁとにかく聞けるのは次に呼ばれた時だけだな。
結局今日もこの腕については何一つ分かったことは無い。
だが魔法学院の図書館ならこの腕に関する資料があるかもしれない。
そんな淡い希望を持って眠りについた。
♢♢♢♢♢
コンコン
「ほら起きてリョーマ! 朝食だよ!」
ノックと共にアリスの声が部屋に響く。
今更ながらアリスはかなりの美少女である。
15歳の今でそうなのだ。
将来必ず美女と言われるだろう。
そんなアリスに起こされるのは男冥利に尽きるというものだ。
まぁはっきり言ってしまえば美少女に朝起こされるとか新婚っぽくていいなぁと、くだらないことを考えていた。
アリスにバレたら顔を真っ赤にして殴られるので絶対本人には言わないが。
「……おはようアリス……ふぁぁ眠いなぁ……」
「着替えたら降りてきてね! 朝ごはんだよ!」
ご飯に起こしてくれるとかますますそれっぽいなぁ。
そんな事を考えながら寝巻きからラフなシャツに着替える。
そして顔を洗い宿の食堂に向かう。
「来たな坊主」
「おはよう」
「おはようアリス、それで彼女は?」
そう言いながらアリスの隣に座る少女にチラリと目を向ける。
「……おはようございます」
まだ眠いのか目を擦りながら消えそうな声での挨拶だった。
ローブは脱いでいて顔が良く見えた。
薄い緑色の髪に青の瞳。
そしてとがった耳。
どっからどう見てもエルフの特徴です、本当にありがとうございます。
しかしまぁ初めて見たな……
エルフは大体が森の中で一生を過ごし、森の外を嫌う。
だから森の外に出てくるエルフはとても珍しく、冒険者なら間違いなく勧誘が来る。
エルフは種族全体で精霊が見える。
その理由はエルフの起源に関係がある。
元々エルフ人間に恋をした妖精によって生み出された存在だ。
妖精は人間のフリをして近づき相思相愛となった。
その間に産まれた種族こそがエルフ。
唯一神エリクシール様はそれを微笑ましく思いそのエルフと全く同じ存在を作った。
そして森の守護を言い渡したのだ。
そのため昔は妖精も普通に見えたらしい。
しかし妖精の力をまるで自分の力だと言わんばかりに他種族へと侵攻した。
してしまった。
その結果妖精は彼らエルフの大半を見限り姿を消した。
妖精と長い間触れ合わなかったエルフは次第に妖精が見えるものが減っていき見えるのは精霊だけになっていった。
まぁたまに先祖返りで妖精が見えるエルフが出るらしい。
しかしそれはただのエルフではなくハイエルフと言う。
ハイエルフは生まれながらにしてとんでもない魔力を持ち、妖精と契約できる。
だが残念なことにハイエルフは神子として祭り上げられる。
そして森から出ることは許されないらしい。
話を聞く限りでは色々と言いたいことがあるが人間である俺が口を出す事ではない。
そして問題は目の前にそのエルフの少女がいる事だろう。
周りからもチラチラと視線を感じる。
いつもはアリスに向けられる視線が多いが今日はエルフの少女に向けられる視線が圧倒的に多い。
エルフである少女はとんでもなく希少だと言えるだろう。
声だけでもかけようとお互いに牽制し合っている。
そしてついに一人の男が近づいてくる。
「なぁ嬢ちゃん、俺は」
「うるさい邪魔」
「な!?」
一見おとなしく見える少女のいきなりの拒絶に驚いたのか口をパクパクと動かしていた男は次の瞬間には顔を真っ赤にして少女に掴みかかった。
しかし残念。
その隣にはアリスがいる。
「ガッ!?」
手を捕まれ身体強化で強化された筋力で壁に叩きつけられる。
それも片手で。
周囲の空気が凍りつく。
それはそうだろう。
自分よりも遥かに年下の少女に代の大人の男が片手で投げられたのだ。
その反応が正常だよ……
「このガキ!」
投げられた男が戻ってきて早々怒鳴り散らす。
しかしアリスはあくまで冷静に対応する。
「なに?」
「よくもやってくれたな! 舐めやがって!」
「? そっちが先でしょ? 自分から掴みに来ておいて何言ってるの?」
ド正論。
理論では反論のしようがないだろうな。
「人を投げておいて謝罪もなしか!? あぁ!?」
「人に掴みかかっておいて謝罪はないの? それに投げられるような鍛え方しかしてないの?」
この温度差よ。
しかも煽ってるように聞こえるがこれは素で言ってる。
昨日のやつとは違い剣を抜かない程度の冷静さは残ってるらしい。
もし剣を抜いたら俺が殴る。
今はアリスが対応してるが剣を抜いたら俺が対応する。
流石にこれは譲れない。
まぁ目の前で友人を傷つけられそうになったらキレる。
「ッッッッ!」
最早言葉になってない。
諦めたようでこちらを睨みつけると宿から出ていった。
周りの反応には意外と差がある。
感心したような視線を向ける者。
驚愕の視線を向ける者。
面白いものを見たと笑う者。
恐らくアリスを見て何となく実力を察していた実力者とアリスを子供だと侮っていた弱者と昨日の俺の戦闘を見てアリスの実力に予想をつけていた者に別れるのだろう。
「お疲れさん」
「そんなに疲れてないわよ」
まぁアリスならあの程度のやつは楽に勝てるだろうしな。
さてと、俺はこいつに色々と聞きたいことがある。
まずは……
「お前、名前は?」
俺はなんだかんだでこいつの名前を聞いたことがない。
ゴタゴタし過ぎて聞くのをすっかり忘れてた。
「……そう言えば言ってなかったわね、私の名前はルイよ」
「よろしく、ルイ」
ルイと名乗ったこの少女は柔らかく微笑んだ。
魔法の詠唱が地味に伏線だったりする。




