10年後が待ち遠しいです
またギリギリ間に合わなかった~!
「全く……なんなんだこいつは」
気絶した男を多少乱雑に道の端へと引きずって行く。
本当は触るのも嫌だが家の前に置いておきたくない。
「なるほどぇ。確かにとんでもない魔力だよ」
「全くだ。どうやら妖精の修行を受けたというのは本当らしいな」
声がしたので振り返ると引きつったような苦笑いを浮かべる両親がいた。
しかし以外だな。
こんな力を見せたら怖がられるものだと思っていたのだが。
「俺が怖くないの?」
実際に聞いてみる。
超会話の力で怖がってないのは分かってる。
それでも不思議だったのだ。
だって自分の息子がある日突然妖精という現代でいえば核兵器並みの扱いをする国だってあるのだ。
とはいえ妖精はそこら辺に居る。
しかも見えないから会話もできない。
そんな存在に国に入ってこないで下さいなんて言えるはずが無い。
仮に会話ができても3大最強種の1つである妖精に向かって真正面からそんな事を言えるはずがない。
そもそも妖精は魔力そのものなのだ。
そんな存在に出ていかれたら魔力が物理的に減る。
実は既に実証済みだったりする。
過去に妖精や精霊を危険な存在であると言い放った国があった。
そして運の悪いことに妖精が見える者がいた。
そして追い出した。
結果はお察しの通り。
人間に命令されたことが気に食わない精霊や妖精が出ていくついでとばかりに植物などの自然物が生成する魔力を止めてしまったからさらに大変。
その国は直ぐに自分たちが悪いのだと悟り当時の国王や王族、貴族などが革命により市民に処刑されその後に改めて精霊や妖精を探したが全く見つからなかった。
さらに妖精が見える者は危険な存在としてその前に処刑されていた。
妖精にとって自分達がが見える人間はとても少ない。
だから友達だったのだろう。
今の俺と同じように。
妖精達がその国を見限るには十分な理由だった。
その国の周辺はは魔力が一切なくなった。
この世界で魔力とはエネルギーの1つだ。
しかも最も重要なエネルギーでもある。
それが無くなればどうなるかは誰でも想像はつく。
当然その国は滅びた。
精霊や妖精を追い出してからたった1ヶ月後のことだった。
その国と仲が悪かった隣国から攻め込まれ簡単に滅んでしまった。
これ以上ないほどの究極の自業自得。
この事件でさらに妖精達を危険視する国が強気に発言したが実行することは無かった。
滅んだ国の二の舞いになりたくはなかったのだろう。
とにかくそんな存在が見えてその力を振るう俺が何故怖くないのかと聞いてみたくなった。
すると両親は顔を見合わせて軽く小突かれた。
「お前は俺達の大事な子供だ。最初は悪魔にでも取り憑かれてるのではないかとか思ったが正体が分かれば何の問題もない」
「全く色々心配して損したよ」
「.....ありがとう」
おもわず涙ぐんでしまった。
前世では俺に大してまともに接してくれたのは菅原ぐらいのものだった。
それが今ではこんなに優しい人達に囲まれている。
両親はそんな俺を見て優しい笑みを浮かべる。
「よし! 飯にするか!」
「そうだね。冷めちまうよ」
俺はこの人達の子供で良かった。
「それで10年後には魔法学院に行くんだな?」
「行くよ」
何を言われようとその決意だけは変わらない。
もう二度と昨日のようなことは避けたい。
力は妖精達の修行でつけられる。
ならばあと必要なのは情報と技術。
それがあれば俺はもっと強くなれる。
それを両親に告げると納得してくれた。
「確かに妖精の修行があれば俺達が鍛える必要もないしな」
「むしろ普通の修行は邪魔になりそうだね」
改めて許可を貰えたことにほっとする。
これで強くなれなかったら俺のせいだろう。
出発は5年後。
今度友達に知らせよう。
前世ではできなかったまともな友達だからね。
知らせるのがいいだろう。
.....あと5年後。
楽しみだ。
♢♢♢♢♢
「失敗しただと!? そんな馬鹿な!」
ガディアスは自分の執務室で室で怒鳴り声を上げていた。
「ひい! そ、そのようでございます」
「ふざけるんじゃないぞ! 今回の1件にどれだけ金をつぎ込んでると思ってる! 〈豪翼の不死鳥〉も雇った。教会の聖典黒書も雇った! それでどうして失敗するんだ!」
「わ、分かりません.....」
「それで済む問題か! おかげで俺は大損失だ!」
報告に来た男を怒りに任せて殴る。蹴る。
「くそっもういい! さっさと行け!」
逃げ去るように報告の男は部屋を出て行く。
「全く! 役立たず共め! 俺は金を払ってるんだぞ! 仕事ぐらいちゃんとこなしやがれ!」
「父上? 失礼しますよ」
「アックスか……今忙しいのだ。後にしてくれ」
「いえそうではなく、父上に会いたいという貴族の方がいらっしゃってます」
「な!? 貴族だと! すぐにお通ししろ」
まずい!
まさか〈豪翼の不死鳥〉のことがバレたか? それとも聖典黒書を私的に使ってるのがバレたのか……内容によってはここでその貴族を始末しなければまずいな……
「失礼します」
入ってきた男はでっぷりと太った肥えた豚によく似ていた。
ガディアスは知る由もないがリョーマに絡んで撃退されたリベローだった。
「初めまして。私は教会の神官である、リベロー ジェイルズと申します。急な訪問で申し訳ありません」
「リベロー様ですね。本日はどのようなご用件でしょうか?」
この男、神官とは思えんな。
しかし胸元にある新刊の証拠たる金の剣と銀の盾の紋章は間違いなく本物。
ということはこいつは本当に神官なのだろう。
「実は本日ここに来たのはリョーマ殿のことに関してなのです」
「リョーマ殿ですか?」
何を言ってるんだこいつは? 確かにあのガキには手を焼かされているがそれがこの男になんの関係があるというのだ。
あのガキに聖典黒書を動かした件ならこんな遠回しな言い方をせず直接その事を話すはずだ。
一体なんのようだと言うのか。
「実はですな。リョーマ殿は銀の髪に黄金の瞳を持っておられます。ご存知の通り我ら教会は銀と金の色を神聖なものとしております。
それ故にリョーマ殿をお連れしようとしたのですが断られてしまいましてな……しかし我々としてはなんとしてもリョーマ殿を回収したいのです」
まて。今この男なんと言った?
「回収ですか?」
「えぇ回収です。生きている状態で連れてこいとの命令なので殺す訳にはいかないのですけどね」
リベローはハッハッハっと何が面白いのか非常に耳障りな声で笑った。
しかしこれはチャンスかもしれない。
この男は確実に裏の人間だ。
正確には貴族という身分を盾に好き勝手しているだけのようだがそれでもこれは有難い。
何せ貴族が味方になるのだ。しかも神官の。
これは私に運が向いてきたな。
そう確信してガディアスはニヤリと笑った。
「なるほど。では私はリベロー様のお手伝いを致しましょう。その代わりと言ってはなんですが少々お願いしたいことがございます」
「なんですかな?」
「聖典黒書のことです。この間あの部隊をお借りして動かしたのですがその時の金をなんとかして頂けませぬか? 図々しいお願いなのは分かっております」
そう言うとリベローは非常に驚いたような顔を見せた。
「なんと!? 聖典黒書のことを知っているのですか! しかもそれを使える立場にあるとは……なるほど、私があなたに出会えたのはかなり運がいいらしい」
聖典黒書は一部の商人や貴族などの寄付を受けるとその商人や貴族などに貸し出される。
しかしそれには少し制限がある。
まず聖典黒書の存在を誰にも漏らしてはならない。
2つ目は使用する際は必ずその使用用途を聖典黒書に命令権を持つ神官に告げること。
最後に使用後に成功、失敗に限らず特定の金額を支払う事。
この3つである。
問題は3つ目だ。
その金額は30万エリー。
大金貨30枚になる。
この世界の金額の単位は唯一神エリクシールから取ったエリーという単位を使っている。
そして銅貨は1エリー、小銀貨は100エリー、銀貨は1000エリー、大銀貨は1万エリー、小金貨は10万エリー、金貨は100万エリー、大金貨は1000万エリー、そして1億エリーという数で決まっている。
これは世界銀行という国が管理せずギルドと同じで1組織として存在する。
その世界銀行が正式に決めたことだ。
話を戻せば30万エリーはかなり高い値段だ。
出さなくてもいいなら絶対に出したくはない。
そんな時に教会の神官であり貴族でもあるリベローが尋ねて来たのだ。
上手くやれば今後はタダで聖典黒書を使うことが出来るかもしれないのだ。
対してリベローは聖典黒書の存在を兄から聞いて知ってはいるが使える立場には居ない。
使うには使うにはたとえ教会の者であっても金を寄付することが必要になる。
しかしリベローは兄から送られてくる金を全て娯楽に注ぎ込んでいた。
そのおかげでリベローはほとんど金を寄付できていなかったため聖典黒書の使用権を持っていなかった。
なのでガディアスと関係を築く事が出来れば自分も聖典黒書を使うことが出来るようになるのだ。
ガディアスはニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ頭を軽く下げた。
「リベロー様に全面的に強力しましょう! これからよろしくお願いします」
「えぇ、これからよろしくお願いします」
ここに1つの協力関係が結ばれた。
これから破滅に向かうことも知らずに。
リベローとガディアスの会話は短く書くつもりだったのに気づいたらガッツリ書いてたw




