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第9話帝国の第一王女

 元聖騎士団長たちが空の彼方へ吹き飛び、魔王軍の副官が我が家の「全自動・水やり係」として涙を流しながら畑に水を撒くようになってから、さらに数週間が経った。


 聖騎士団が勝手に崩壊したせいで俺のいた王国は実質的に滅亡したらしいが、そんなこと知ったことではない。

 今の俺は、ルシエラや副官と一緒に、限界突破バグで甘さをカンストさせた高級メロンを収穫し、のんびりとデザートタイムを楽しんでいた。


「ふむ! このメロンという果実、果汁が脳に染み渡るような美味さだなレン!」

「でしょ。水分量と糖度の数値をバグらせて上限突破させてあるからね」


 すっかりエプロン姿が板に付いた魔王ルシエラが、種族の尊厳をどこかに置き忘れたような笑顔でメロンを貪っている。

 そんな平和な午後のひととき、我が家の防衛システム【全自動・不審者検知魔法陣】が、またしてもピンポーンと小気味いい警報音を鳴らした。


「おっと、また誰か引っかかった。ルシエラ、ちょっと見てきて」

「ふぃ、まかふぇろ(わかった、任せろ)」


 ルシエラがメロンの果汁で濡れた口元を袖で拭いながら玄関の扉を開ける。

 俺もその後ろから外を覗くと、そこにはこれまでにないほど豪華な、白銀の装飾が施された馬車と、十数人の重装騎士たちが空中でマヌケな姿勢のままピタリと静止していた。


「な、何が起きたの……!? 馬車が、一歩も前に進まないわ……!?」


 フリーズしながらも、凛とした美しい声で困惑している少女がいた。

 馬車の窓から顔を覗かせているのは、絹のような金髪と澄んだ青い瞳を持つ、息を呑むほど気品溢れる美少女だ。その頭上には、世界のシステムが教えてくれる『キャラクターID』が浮かび上がっている。


【名前:エレノア】

【肩書:隣国ギルニア帝国の第一王女】

【状態:フリーズ(速度バグ)】


 隣国の王女様が、わざわざこんな不毛の辺境に何の用だろう。

 俺が指をパチンと鳴らして【速度バグ】の制限を少し緩めてやると、王女エレノアはフリーズが解けた瞬間に馬車から飛び降り、周囲を警戒しながら俺の家を見つめた。


「そこの貴方が……元聖騎士団の『棒立ちの無能』こと、レン様ですね!?」

「ええ、まあ。レンですが……その不名誉な二つ名はできれば忘れてほしいです」


 エレノアは俺の顔を見るなり、確信に満ちた表情で一歩前に踏み出した。


「我が国の情報部から報告を受けました! 王国が魔王軍の襲撃であっさりと崩壊した原因、それは戦場を裏で支配していた唯一の英傑――貴方を、愚かな騎士団長が追放したからだと!」

「あー、その噂、隣国まで流れてるんだ」


「はい! ですので、我がギルニア帝国は貴方を『国賓』として正式にお迎えに参りました! 我が国の最高魔導顧問の地位と、王国の時の十倍の報酬、そして……私が貴方の妻となる権利を差し上げます! ですから、どうか我が国へ来てください!」


 王女様からの、まさかの直球すぎる逆プロポーズを交えた超破格のスカウト。

 普通の男なら鼻血を出して喜ぶシチュエーションだが、俺はため息をついて首を横に振った。


「すみません、せっかくですがお断りします。今の僕、ここでのスローライフが最高に気に入ってるので、またどこかの国でブラック労働する気は一切ないんですよ」


「そ、そんな……! 国家予算並みの報酬と、この私の美貌をもってしてもダメなのですか……っ!?」


 エレノアが絶望に顔を歪めたその時、俺の隣にいたルシエラが、メロンの皮をゴミ箱に放り投げながら、エレノアの前に一歩踏み出した。


「おい、そこの小娘。私のレンを、つまらん世俗の権力で汚そうとするな」

「なっ……貴方は……魔王ルシエラ!? なぜ世界最凶の魔王が、エプロンを着て人間の家から出てくるのよ!?」


 隣国の王女と、スローライフに染まった魔王。

 予測不能な二人の美少女の出会いによって、俺の辺境生活に新たなバグ(波乱)が巻き起ころうとしていた。


読んでいただきありがとうございます!

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次回もお楽しみに!

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