第4話魔王の使役
「な、なぜ私がこんなことをしなければならんのだぁぁぁっ!」
青く澄み渡った辺境の空に、ルシエラの絶叫が響き渡った。
現在、彼女は俺のログハウスの裏庭で、一丁のクワを握りしめて猛烈な勢いで畑を耕している。
「ほらほら魔王様、手が止まってるよ。そこ、まだ土が固いからしっかり耕してね」
「貴様ぁぁ! この私を、魔界の頂点に君臨する魔王ルシエラを、ただの農作業員としてこき使うなど、万死に値するぞっ!」
ルシエラは怒髪天を突く勢いで怒鳴り散らしているが、その手元は恐ろしいほどの精密さで、信じられないスピードで綺麗に畝を作り続けている。
それもそのはず。彼女自身は必死に抵抗しようとしているのだが、彼女の身体には俺が仕込んだ【全自動・労働ループバグ】がかかっているからだ。
「くっ、身体が……私の意思とは無関係に、完璧なフォームでクワを振り下ろしてしまう……! おのれ、これはどんな高度な精神支配魔法なのだ!」
「いや、ただのモーションの無限ループ。君の『クワを振る』っていう行動データを、世界のシステムに強制リピートさせてるだけ」
「意味がわからん! 説明の単語がいちいち不気味すぎるのだ!」
ルシエラは涙目でクワを振り続ける。
世界を滅ぼすはずの魔王が、今や辺境の地で最高の効率を誇る「全自動・耕作マシーン」と化していた。
数分後、あっという間に広大な畑が完成する。
俺がバグを解除してやると、ルシエラはその場にガクッと膝をつき、肩で荒い息を吐いた。
「はぁ、はぁ……。おのれ人間め、私に恥をかかせおって……。だが、これで畑は終わったな! 次こそは貴様の首を――」
「あ、終わったからこれあげる。お疲れ様」
俺は、先ほど『収穫フラグ無限ループ』で大量に収穫した、ツヤツヤの高級リンゴを一個、ルシエラに放り投げた。
ルシエラは反射的にそれを受け取り、不審そうにリンゴを見つめる。
「ふん、ただの果実か。魔王たる私が、このような――」
文句を言いながらも、労働でお腹が空いていたのだろう。ルシエラは我慢できずに、リンゴをシャキッと一口かじった。
その瞬間、彼女の紅い目が信じられないほど大きく見開かれた。
「なっ……な、何だこの美味さは……っ!? 果汁が、まるで極上の魔力液のように濃厚で、全身の疲労が一瞬で消えていく……! このような至高の果実、魔界の王宮でも食べたことがないぞ!」
「あ、それ、ただの野生のリンゴだよ。世界のデータをちょっと書き換えて、糖度と栄養価の数値を『上限突破(限界突破バグ)』させただけだから」
「げんかいとっぱ……? 貴様は、神の領域の作物を、一瞬で作り出したというのか……?」
ガタガタと震えながら、リンゴを両手で大事そうに抱え込むルシエラ。
彼女の中で、俺に対する恐怖が、徐々に「畏怖」と「興味」に変わっていくのが分かった。
「ここなら、働いた分だけ美味しいものが無限に食べられるよ。温泉もあるし。魔王軍のトップとしてピリピリ働くより、ここで俺のデバッグ作業を手伝いながら、のんびり暮らした方が良くない?」
「くっ……私を、餌で釣る気か……!」
ルシエラは悔しそうにリンゴをシャキシャキと食べ進めながら、じっと俺を見つめてくる。
どうやら、胃袋は完全に掴めたらしい。
こうして、世界を恐怖に陥れた魔王は、俺の全自動スローライフの「最初の従業員」として、辺境の家に定住することになったのだった。
読んでいただきありがとうございます!
なんと魔王がこき使われてる(゜∀゜)
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次回もお楽しみに!




