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第14話帝国第十二皇帝

「エレノアにレナード、そして我が帝国の誇る魔導騎士団までもが行方不明だと……!? 一体その辺境の家で何が起きているのだ!」


 シスコン皇太子レナードが「全自動・番犬係(自称)」として我が家に居着いてから、さらに数日が経った。

 ついに事態を重く見たギルニア帝国の最高権力者――皇帝本人が、極秘裏に近衛兵を率いて我が家へと親征してきたらしい。


 我が家の防衛システム【全自動・不審者検知魔法陣】が、昨日をさらに上回る、ファンファーレのような豪華な警報音を鳴り響かせた。


「おい、レン。今度はなんだか凄く偉そうなおっさんが空中で固まってるぞ」

「どれどれ……」


 ルシエラと一緒に玄関を開けると、そこには黄金の王冠を被り、豪華絢爛なマントを羽織った厳格な髭のおじさんが、愛馬にまたがったまま空中でピタリと静止していた。

 その頭上には、世界のシステムが教えてくれる『キャラクターID』が浮かび上がっている。


【名前:ルドルフ】

【肩書:ギルニア帝国第十二代皇帝(威厳の塊)】

【状態:フリーズ(速度バグ)】


「お、お父様……!? なんで皇帝自らこんな辺境まで来てるのよ!」

「エレノア、お前たちの父親か。……よし、じゃあちょっとだけ【速度バグ】を緩めるね」


 俺が指をパチンと鳴らすと、皇帝ルドルフの口元だけが動くようになった。彼はフリーズしたまま、威厳に満ちた声で激昂する。


「貴様がすべての元凶、元聖騎士団の無能レンか! 我が愛娘エレノアを監禁し、皇太子レナードと騎士団を洗脳した大悪党め! 今すぐ我が子供たちを返さ――」

「お父様、大きな声を出さないで。せっかくレン様が世界のバグで淹れてくれた高級紅茶の香りが飛んじゃうじゃないの」

「……え?」


 皇帝の言葉を遮ったのは、ログハウスのテラス席で優雅にティータイムを楽しんでいるエレノアだった。

 彼女はレンがバグで作成した最高級シルクのドレスを身に纏い、優雅にカップを傾けている。


「な、エレノア……!? お前、監禁されているのでは……。いや、それよりもあそこにいる、エプロンを着て雑巾がけをしている男は……まさかレナードか!?」

「あ、お父様! 見てください! 僕、レン様のバグ技で『廊下の摩擦係数』をゼロにしてもらったので、一瞬で床がピカピカになるんです! 全自動大掃除、最高ーーーッ!」


 皇太子レナードは、ピンクのエプロンをなびかせながら、スケートのように廊下を滑って爆速で雑巾がけをしていた。そこには帝国の次期マエストロとしての威厳など微塵もない。


「な……ななな、何なのだこの光景はぁぁぁっ! 我が国の誇りが、なぜ人間の家で全自動ハウスキーパーをやっているのだ!」

「フン、相変わらずうるさい人間だな。おい、皇帝とやら。レンのバグ飯と温泉の快適さを知れば、貴様だってこうなるのだぞ」

「ひ、ひぃぃっ!? ま、魔王ルシエラ!? なぜ魔王が割烹着を着て三角巾を頭に巻いているんだ!?」


 皇帝ルドルフは、完全に世界の理が崩壊した光景を目の当たりにし、恐怖と混乱で脳の処理が追いつかなくなっていた。


「レン、この威張っている皇帝の【存在フラグ】も書き換えて、我が特製トマト畑の追加肥料にしてしまってよいか?」

「いや、だから皇帝を肥料にするのは国際問題になるからダメ。……ルドルフ皇帝、我が家の静寂を乱したペナルティとして、ちょっと『皇帝の威厳ステータス』をバグらせてもらいますね」


 俺は一歩前に出ると、静止している皇帝をじっと凝視した。

 そして、【全自動・世界干渉オート・グリッチ】を発動する。


「【ステータス上限突破リミット・バグ】。君の『食欲』と『リラックス度』のパラメータを、通常の1万倍に書き換えるね」


 パシィィィン!

 心地いいシステム音が響いた瞬間、皇帝ルドルフの脳内に、これまでにない強烈な空腹感と、温泉への強烈な欲求が全自動でブチ込まれた。


「う……うおおおおっ!? な、何だこの猛烈な飢えは……っ!? そして、あそこに見える湯気を立てた露天風呂に、今すぐ飛び込みたくて身体が震えるぞ……っ!」

「フフン、お父様。諦めて観念なさい。レン様のバグ技の前には、皇帝の威厳なんて一瞬でバグデータとして消滅するのよ」


 エレノアが勝ち誇ったように笑う。

 ギルニア帝国の最高権力者である皇帝ルドルフは、ただの「お腹を空かせた温泉好きのおじさん」へと一瞬で変貌を遂げ、馬の上で涙を流しながら「飯を……極上の温泉をくれぇぇっ!」と懇願するのだった。


読んでいただきありがとうございます!

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