第13話全自動スローライフ
「はぁ、はぁ、はぁ……。お、終わった……。終わったぞ、レン殿……!」
数時間後。我が家の広大な敷地の雑草を一本残らず毟り終えた皇太子レナードは、泥まみれのピンクエプロン姿のまま、地面に両手をついて激しく息を切らしていた。
彼の後ろでは、数百名の魔導騎士たちが燃え尽きた灰のように地面に倒れ伏している。
俺の仕込んだ【労働ループバグ】による強制雑草抜き。それは一切の無駄な動きを許されない、超高効率かつ超高強度のデス・ワークだった。
「お疲れ様でした、レナード皇太子。約束通り、皆さんの装備データを元に戻しておきますね」
俺が指をパチンと鳴らすと、【装備オブジェクト置換】が解除され、彼らのピンクエプロンは一瞬で元の白銀に輝く最高級の甲冑へと書き換わった。
「お、おお……我が白銀の甲冑が戻った……! これで、これでやっと帝国の誇りを取り戻せる……っ!」
レナードは自分の胸当てを撫で回しながら、涙を流して安堵の息を漏らした。
だが、その強靭な肉体は限界を迎えており、お腹からグゥゥゥ〜〜〜と、情けない音が盛大に鳴り響いた。長時間の強制労働のせいで、騎士団全員が飢え死に寸前なのだ。
「お兄様、本当にお疲れ様。そんなに泥まみれでお腹を鳴らすなんて、帝国の皇太子として恥ずかしくないの? ……ほら、レン様。お兄様たちにも、あれを一切れあげてくださいな」
エレノアが、すでに二玉目の限界突破メロンをスプーンでくり抜きながら、呆れたように言った。
「そうですね。じゃあ、頑張って庭を綺麗にしてくれたお礼です。どうぞ」
俺は【座標無限増殖】でその場に新しくリスポーンさせた、みずみずしい大玉の【限界突破メロン】をナイフで等分し、レナードと騎士たちに手渡した。
「ふ、ふん! この私が、人間を誘拐するような不届き者の施しを――」
「お兄様、早く食べないとルシエラが全部奪い取っていくわよ?」
「む!? この極上の魔力肉を食べ終えたぞ! 次はそっちのメロンを寄せるのだ!」
「ひっ!? わ、分かった、食べる! 食べればいいのだろう!」
迫り来る魔王のプレッシャーに押され、レナードはヤケクソ気味にメロンをガブッと一口かじった。
――その瞬間。
皇太子レナードの身体が、まるで落雷でも受けたかのようにビクンッと大きく跳ね上がった。
「な……な、ななな、何だこれはぁぁぁっ……!? 美味い、美味すぎる! 口の中に入れた瞬間、肉体の細胞すべてが歓喜の悲鳴を上げているぞ! 甘みの数値が、世界の許容量を超えて脳に直接突き刺さってくる……!」
レナードはあまりの美味さに白目を剥き、その場にガクガクと崩れ落ちた。
彼の後ろにいた騎士たちも、メロンを一口食べた瞬間に「う、美味すぎるぅぅっ!」「生き返るぞぉぉっ!」と叫びながら、甲冑姿のまま大号泣している。
「これ、ただの野生のメロンの糖度数値をバグらせただけなんですけどね」
「バグ万歳ぃぃぃっ! レン殿、いや、レン様! 私、ギルニア帝国にはもう帰りません!」
レナードはメロンの果汁で口の周りをドロドロにしながら、俺の前にスライディング土下座を決めた。
「こんな美味いものが無限に湧き出て、妹もここにいて、可愛いエプロンまで貸してもらえる最高の職場環境を、なぜ今まで誰も見つけられなかったのだ! 今日から私もこの家の『全自動・不審者撃退係』としてここで暮らします! だから……だから毎日メロンを食べさせてくれぇぇっ!」
「いや、ボディーガードって、うちの防衛システムの方が君たちより遥かに強いんだけど……」
「そんなことはどうでもいいわ、お兄様! レン様の隣の『妻の座』は私が貰うんだから、お兄様は裏庭の犬小屋で大人しく番犬でもしてなさい!」
「何だとエレノア! 兄を差し置いてレン様の妻になるなど、このシスコン兄貴が許さんぞ!」
バグだらけの楽園の庭先で、今度は皇太子と王女による、レンを巡る不毛な兄妹喧嘩が勃発した。
国を滅ぼした魔王軍のトップが農業に勤しみ、隣国の王女が書類をマクロ化し、その兄の最強皇太子が番犬になりたがっている。
世界のバランスは完全にバグり散らかしているけれど、俺たちの全自動スローライフは、今日も賑やかに、そして最高に甘く続いていくのだった。
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