第12話魔導騎士の労働
「う、嘘だろ……。我がギルニア帝国が誇る、無敵の白銀騎士団が……ただのお掃除集団に……っ!?」
ピンク色の可愛いエプロンを身に付け、右手にハタキを握らされた皇太子レナードは、愛馬の上でガタガタと震えながら絶望の声を漏らした。
彼の後ろに並ぶ数百名の精鋭魔導騎士たちも、互いのマヌケな格好を見つめ合いながら、あまりの恥ずかしさに涙を流している。
「レナード皇太子。その格好、とっても似合っていますよ? そのまま国に帰って、お父様である皇帝陛下に成果を報告してきたらどうですか?」
「できぬ! そんなことをしたら、我が帝国の威信は文字通り地に落ちる! というか、私が恥ずかしさのあまり切腹せねばならん!」
レナードは顔を真っ赤にして、フリーズしたまま必死に首を振った。
いくらシスコンで暴走したとはいえ、一国の皇太子がピンクエプロン姿で王宮に帰るわけにはいかない。
「れ、レン殿! 頼む、悪かった! 私が完全に間違っていた! 貴方は妹を誘拐した卑劣漢などではなく、ただ世界の理を超越したデタラメな神域の魔術師だったのだ! だから、お願いだからその……この呪い(パッチ)を解除して、元の装備に戻してくれぇぇっ!」
レナードはついにプライドを全て投げ捨て、馬の上で涙ながらに懇願してきた。
だが、俺はため息をついて首を横に振る。
「タダで戻すわけないでしょう。突然押しかけてきて僕のスローライフを邪魔したんですから、相応の対価を払ってもらいます」
「た、対価!? 金か!? それとも領地か!? 何でも言ってくれ!」
「いえ、そんなものは世界のバグで無限にリスポーンできるのでいりません。……ちょうど、敷地が広がりすぎて、庭の雑草抜きの手が足りなくて困ってたんですよね。ルシエラや副官だけじゃ追いつかなくて」
俺がそう言うと、隣でクワを持っていた魔王ルシエラが、待ってましたと言わんばかりにニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
「ふむ、良い提案だレン。この新入りどもに、我がトマト畑の周りの雑草を全て毟らせよう。おい、そこのシスコン皇太子。レンのバグ技で元の装備を返してほしくば、全員でそのハタキをクワに持ち替え、庭の草を一本残らず引き抜くのだ!」
「な……ななな、我が帝国の精鋭に、雑草抜きをしろと言うのか……っ!?」
「嫌ならそのままエプロン姿で国に帰る?」
「い、嫌だ! やる! やらせていただきますぅぅっ!」
レナードは泣きながら叫んだ。
俺が指をパチンと鳴らして【速度バグ】を解除し、彼らの持つハタキを【オブジェクト置換】で臨時の『全自動・雑草抜き用マジックハンド』に書き換えてやる。
すると、数百名の魔導騎士たちの身体は、俺の仕込んだ【労働ループバグ】によって、一斉に猛烈な勢いで地面の雑草を毟り始めた。
「くっ、身体が……私の意思とは無関係に、完璧な効率で雑草を仕分けていく……!」
「お、お兄様、頑張ってね。そこ、まだタンポポが残ってるわよ」
エレノア王女が、メロンを上品にスプーンですくいながら、エプロン姿で泥まみれになって草を毟る兄に声援(追い打ち)を送る。
こうして、隣国の最強魔導騎士団は、レンの家の「全自動・雑草抜き係」として、辺境の地で大々的なボランティア活動(強制開拓)に従事することになったのだった。
かつて俺を追い出した聖騎士団が勝手に滅び、魔王軍のトップ層が農業チームとなり、今度は隣国の精鋭騎士団が庭のメンテナンス係になる。
俺の周りの人間関係はどんどんバグっていくけれど、不毛の地だった辺境の森は、今や世界で最も安全で、世界で最も快適な、全自動の超大都市(楽園)へと進化しつつあるのだった。
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