第11話ギルニア帝国皇太子
「エレノアァァァッ! 今すぐ助け出してやるからな、我が愛しの妹よーーーッ!」
魔王と王女が裏庭で火花を散らしていた翌朝。
地響きのような大音声と共に、我が家の防衛システム【全自動・不審者検知魔法陣】が、昨日を遥かに超える大音量でアラートを鳴り響かせた。
あまりのうるささに俺とエレノア、そしてルシエラが玄関を出ると、そこにはギルニア帝国の精鋭魔導騎士団、総勢数百名が整然と並び――全員が空中でマヌケな姿勢のままピタリと静止していた。
その先頭で、純白の愛馬にまたがったまま完全にフリーズしているのは、きらびやかな金髪のイケメンだ。その頭上には、世界のシステムが教えてくれる『キャラクターID』が浮かび上がっている。
【名前:レナード】
【肩書:ギルニア帝国皇太子(自称・最強のシスコン)】
【状態:フリーズ(速度バグ)】
「あ、あれは……お兄様!? なんでこんなところに軍勢を率いて来ているのよ!」
「エレノア、お前の兄貴か。……よし、じゃあちょっとだけ【速度バグ】を緩めるね」
俺が指をパチンと鳴らすと、皇太子レナードの口元だけが動くようになった。彼はフリーズしたまま、血走った目で俺をキッと睨みつけてくる。
「貴様が元聖騎士団の無能レンか! 我が国の最愛の宝であるエレノアを誘拐し、このような不毛の辺境で監禁・強制労働させているという報告を受け、私が直々に成敗しに来てやったのだ! 今すぐ妹を返さなければ、我が帝国の誇る【最強魔導軍】が一瞬でこの家を塵に――」
「お兄様、静かにして。頭が悪そうに見えるわよ」
「えっ」
レナードの言葉を遮ったのは、他ならぬエレノアの冷ややかな一言だった。
彼女はレンがバグで作った極上の部屋着を着て、手には半分に切った限界突破メロンとスプーンを持っている。完全に実家(王宮)にいる時よりくつろいだ格好だ。
「誘拐でも監禁でもないわ。私は自分の意思で、この全自動の楽園の『居候係』に就任したの。ここには最高の温泉も、王宮の百倍甘いメロンもあるのよ? そんなに怒鳴ったら、レン様に嫌われて私が追い出されちゃうじゃないの!」
「い、居候……!? エレノア、お前がそんな、スプーンで直にメロンをくり抜いて食べるような、はしたない子に育った覚えは……というか、何だその美味そうなメロンは!」
レナードはフリーズしたまま、エレノアが美味そうに食べるメロンを凝視してよだれを垂らしそうになっている。
「だいたい貴様ら人間は、いつも大袈裟に軍勢を率いてやってきては、我がスローライフの静寂を乱す。万死に値するぞ」
「ひ、ひぃぃっ!? ま、魔王ルシエラ!? なぜエプロンを着てクワを持っているんだ!?」
レナードとその部下たちは、エプロン姿の魔王を見て、恐怖と混乱で白目を剥きかけた。
「レン、この過保護な兄とやらの【存在フラグ】も書き換えて、畑の肥料にしてしまってよいか? ちょうどトマトの追加肥料が欲しかったのだ」
「いや、だから肥料にするのはグロいって。……レナード皇太子、妹さんを連れ戻したい気持ちは分かりますが、僕の敷地に無断で軍勢を立ち入らせたペナルティは払ってもらいますよ?」
俺は一歩前に出ると、静止している魔導騎士団の全員をじっと凝視した。
そして、【全自動・世界干渉】を大規模に発動する。
「【装備オブジェクト置換(パッチ適用)】。君たちの武器と甲冑のデータを、すべて書き換えるね」
パシィィィン!
心地いいシステム音が響いた瞬間、数百名の魔導騎士たちが身に付けていた最高級の白銀の甲冑と剣が、光の粒子となって分解された。
そして次の瞬間――彼らの装備は、全員お揃いの『ピンク色の可愛いエプロン』と、手に握られた『お掃除用のハタキ』へと全自動で書き換えられたのだった。
「な……な、何だこのマヌケな格好はぁぁぁっ!?」
最強と謳われた帝国の魔導騎士団が、一瞬にして「ただのお掃除ボランティア集団」へと変貌を遂げた。
その圧倒的な理不尽バグ技の前に、皇太子レナードは恐怖でガタガタと震え、馬の上で涙を流すことしかできなかった。
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