第15話スローライフの続き
「レン殿ぉぉぉっ! 頼む、頼むから我が王国を、お前のその『バグ技』とやらで再建してくれぇぇッ!」
隣国の皇帝ルドルフが、強烈な食欲とリラックスのバグによって「全自動・温泉管理人(見習い)」として我が家に居着いてから数日後。
ついに、俺が以前いた王国のトップ――国王本人が、ボロボロの衣服を身に纏い、文字通り泥まみれになって我が家へと這うようにやってきた。
王都を魔王軍に滅ぼされ、身一つで逃げ延びてきたらしい。
我が家の防衛システム【全自動・不審者検知魔法陣】が、ピンポーンと気の抜けた警報音を鳴らす。
「おい、レン。今度はなんだか薄汚いおっさんが空中で固まってるぞ」
「どれどれ……」
割烹着姿のルシエラと一緒に玄関を開けると、そこにはかつて玉座の上から俺を「戦場で突っ立っているだけの無能」と見下していた国王が、空中でマヌケな姿勢のままピタリと静止していた。
俺が指をパチンと鳴らして【速度バグ】の制限を少し緩めてやると、元国王はフリーズが解けた瞬間に地面へ激しく五体投地した。
「すべてはガイル元団長の盲信を信じた私の過ちだった! お前があらゆる敵をフリーズさせていた真の英雄だと知っていれば、絶対に追放などしなかった! 国は滅び、私はすべてを失った! だが、お前のバグ技があれば、魔王軍を全滅させて王国を何度でも再建できるはずだ! だから頼む、救ってくれ!」
必死に涙を流しながら床に額を擦りつける元国王。
だが、俺が口を開くより先に、ログハウスの裏庭から優雅に歩み出てきた「門番たち」が、冷酷な視線を元国王へと向けた。
「おいおい、どこの馬の骨かと思えば、我がレン様をブラック労働させていた元凶の王ではないか」
最初に現れたのは、頭に三角巾を巻いた魔王ルシエラだった。彼女から放たれる圧倒的な威圧感に、元国王の顔が恐怖で引きつる。
「ひ、ひぃぃっ!? ま、魔王ルシエラ……!? なぜお前がここに……ッ!?」
「フン、私は今、レンの『全自動・農業チームリーダー』だ。お前のような無知な王のために、レンが再び目をシパシパさせて働く必要などどこにもない。さっさと失せろ」
「そ、そんな……! だが、これは人間同士の問題だ! レン殿、どうか慈悲を――」
「人間同士の問題だと? ならば我がギルニア帝国が相手になろう」
次にログハウスから出てきたのは、白銀の甲冑の腕をまくり、手に入浴剤のボトルを持った隣国の皇帝ルドルフだった。
「ご、皇帝ルドルフ陛下……!? なぜ一国の最高権力者が、そんな温泉の準備をしているような格好でここにいるのですか……っ!?」
「何、私は今、レン殿の温泉の『湯加減管理主任』を務めておるのだ。我が娘エレノアもレナードも、すでにこの楽園の住人。我が帝国は、レン殿のスローライフを邪魔する者を全力で排除すると決定した。お前のような無能な元国王など、我が帝国の国力をもって一瞬で歴史からデリートしてやろうか?」
魔王と、隣国の皇帝。
世界の二大トップが、エプロンや入浴剤を持った格好で、俺の「門番」として元国王を完全に包囲していた。
「お兄様、早くあの不審者を敷地外に放り投げて。レン様の特製トマトの収穫の邪魔よ」
「任せろエレノア! 僕の【全自動・不審者強制射出システム】の操作技術を見せてやる!」
テラス席から王女エレノアが指示を出し、ピンクエプロン姿の皇太子レナードが爆速でマジックハンドを操作する。
パシィィィン!
心地いいシステム音が響いた瞬間、元国王の身体の座標がバグり、「ぎゃあああああーーーっ!?」という情けない悲鳴と共に、彼は空の彼方へと弾き飛ばされていった。
「ふぅ、片付いたね。みんなありがとう」
「ふふん、レン様の楽園を守るのは当然だ! さあレン、廊下の掃除が終わったから、約束の限界突破メロンをくれ!」
「私にも高級紅茶のおかわりをお願い、レン様!」
かつて俺を追い出した王国は完全に歴史から消え去り、俺の周りには世界最高峰のメンツが集まっていた。
世界は相変わらず大騒ぎみたいだけれど、俺たちの全自動バグスローライフは、これからもどこまでも快適に、そして賑やかに続いていくのだった。
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