最終交渉
アナキヌス・スパルタクスは予定通りハンニヴァルカとして戦死した事にした。しかしその正体たるユリアンは城の地下室に封じられたままである。本来ならば彼女のような世紀の大逆者人は即刻処刑されるべきである、ラスアジィンニコフやブルースもそう考えていた。しかし私はそうではない。
ユリアンを殺すのか、赦すのか、その対立が彼女を生かしている。だから私は……
「ラスアヅィンニコフ、話がある」
いつものように執務室の窓際で休憩する彼に話しかける。
「なんです?」
「貴方は皇帝になりたい、だから私を出し抜く必要がある。そして今、私と貴方の争点となっているのはユリアンの生死についてであり、貴方は私を出し抜く為にこれを利用する必要がある、この認識は間違いではないよね?」
「はい、勿論」
民衆が私に恨みを持っている、ユリアンの生死が私とラスアジィンニコフの争点になっている、この二つの条件が整っているのならば叶うはずだ。
「なら私から提案する。ユリアンの命の代わりに貴方に帝国とその全てをあげる、だから協力して」
彼は窓際から離れて私の前に立った。
「どういう事です?」
「私は……」
ラスアジィンニコフにこれから私のやる事を全て話した。彼は一度笑った後、ただ残念そうな顔をしていた。
「なるほど、良いですね。ですけれどそうですか、貴方は私に似ていませんでしたね」
結局、名を残したいとか言ってたけど私はそんな人じゃなかったんだろう。私は私の観測範囲の人、ラスアジィンニコフとかユリアンとか、そして私自身に尊敬される人でありたいと思っていた。それが皇帝になって私自身という範囲が帝国そのものになってしまったから、名を残したんなんて言って、まったく馬鹿みたいだ。私は、そこまでできるような天才ではないのに。
「私は貴方のような天才ではないんです、似ているなんて思っていたことに驚きですよ」
「結局、私は噛み合ってきただけなんですから、時代と人に」
「噛み合わせるのも才能でしょ」
「そうかもね、でもありがとう。とにかく、当日は頼むよ」
執務室での仕事を終え、寝室に戻る。いつものように静まり返ってよく片付けられている部屋。でも今日は一人ではない。
「こうして貴方の部屋でお話しするというのも久しぶりですね、ご主人」
また彼の胸板に寄り添ってる。でも今はなんというか、嫌な感じはしない。むしろ心の底から安心する。
「まぁこれが最後だからね」
彼には全てを救う為にやってもらわねばならない事がある。あまり言いたくないけれど、彼は私の奴隷なのでそういう義務がある。と言っても、それをやる頃には彼は奴隷ではなくなっているけれど。
「その話なんですけど……考え直してはくれませんか?」
「嫌だよ既定路線だもん」
「それは分かってるんです、だからそこじゃなくてマリヌス基金の方。ダサくないですか」
私が考えた名前、わかりやすいかなって。まぁでも名前はどうでもいいかもしれない。それなら彼に考えさせた方がいいかも?でもこの人私よりセンス終わってるんだよな。
「金兜基金とか、よくないですか?」
わかりにくいなぁ……だって奴隷救済用の組織なのに金兜はないんじゃないかな。
「ラスアヅィンニコフと話して彼に許可取れたら変えていいよ」
「はぁ、まぁそれならいいですよ」
大きな両腕に抱かれる。これも最後だと思うと本当に名残惜しい。出来ることならずっとこのまま安心していたいけど、それは無理だ。なんと言えばいいだろうか、大人になる時が来たんだと思う。
「ありがとう、今日はずっと。このままで」
私はそのまま眠った。暖かく安心しながら眠った。
翌日、政務院にて会議が開かれる。投票によって選ばれた議員や軍部を集め、緊急事態の終息を宣言するか否かという会議をするのだ。むろん、ここで未だ緊急事態であるとなればヘラヘラ緊急法より皇帝が国家と臣民の権利を保ったままとなるし、逆に緊急事態は一旦の収まりとなったと言えばヘラヘラ緊急法は効力を失い国家と臣民に私は権利を返す。
ここが私の最後の場だ。私は、未だ緊急事態であると宣言し、私の最後の仕事を成す。
私とユリアン、そして帝国の人々が正しく明日を迎える為に。
そういや後二話で終わります。んで今新しいシリーズ描いてるのでそれが出されたらそっちもぜひ。今度はエジプト古王国時代です




