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皇帝ヘリオースとアレクサンドル大王 後編

 




 蠍の宮殿のバルコニーから見下ろす庭には数千の人。そしてその先にある広場、アレクサンドル大王の銅像の足元にも数千の人、建物の上も人、人。彼らは全員軍人であり、私の言葉を待っている。


 「私はマレ・ノストルムの皇帝である!そして諸君らは何だ!」


 喉が裂けそうなくらい大きな声を出して眼下の兵士に叫んだ。


 「諸君らは史上最強の帝国の史上最強の軍隊、マレ・ノストルム軍の兵士である」


 汗が滲み出て髪を濡らす、息が切れそうになるけれどそれを隠さなくてはならない。


 「最強の軍隊が奴隷や農民の寄せ集めに敗れるなどあり得ようか!?あり得ない!断じて!」


 まだ熱が足りない、誰も叫んでない。やっぱり苦手だ。不本意だけど私は議会でコソコソ陰謀している方が性に合っている。


 「故に諸君らは勝てねばならない!帝国の為に、諸君らの妻と子の為に!そして諸君らは帰って言うのだ!ハンニヴァルカに打ち勝ったと!」


 「敵は弱く指揮官は稀代の男!例えそれが騙りであろうと帝都の人々にとっては知らぬ事である!」


 例え偽物であったとしてもハンニヴァルカは本物と言う事にする。そっちの方が得だからだ。だからこの戦いは楽に誇れる戦いであると喧伝する。


 「故に諸君!武勲を立てよ!栄光を手にするのだ!果敢に攻め強欲に殺せ!反逆者に慈悲はいらぬ!秩序に挑戦する者に慈悲はいらぬ!!」


 わかりやすい盛り上がり所でサクラの人たちは叫ぶ。そしてそれに呼応して男達は大きく雄叫びを上げた。


 「もう一度奴らを滅ぼせ!!偉大なるマレ・ノストルムの名の下に!!」


 数万の人間の声と熱は凄まじいもので、本来の夏の初めのような暑さを感じれた。

 演説はまぁ、及第点だったと思う。皇帝の権威があればこその演説だったし、この後のスピキ将軍の演説の方が盛り上がっていた。

 という訳で演説が終わり、今は蠍の宮殿の貴賓室を借りて作戦会議をしてる。


 「この場合は兵をA地点に進めます」


 スピキ将軍と複数人の将軍が机に広げられた地図の上で駒を動かしながら私に解説する。正直言って全く何が何だかわからない。


 「またA地点の防御が分厚ければファランクス魔法兵が突撃、魔法による全面的な火力を利用して、ハンニヴァルカポケットの包囲陣形が造られる前に突破します」


 と言うかこう、これは作戦会議じゃなくて作戦会議の名前を被った儀式だ。皇帝が説明を聞いて、この作戦でいいですよと承認する儀式である。


 「またこの際、C地点からの増援が予測されますが、その場合はA地点の兵を囮にC地点に穴を作って後方に浸透します」


 一兵卒がそうであるように、将軍も皇帝という存在で安心したいんだろう。だって承認っていうのは、この作戦の可否の責任は皇帝がとりますよという意味で、それは皇帝の責任となれば皇帝はこの戦いで負けたって記録されるから自分の家には傷が致命傷だけど浅いという事である。


 「素晴らしいです、流石はノストルムきっての将軍スピキ。では今時の指揮の一切をスピキ将軍に委ねましょう」


 「感謝致します、陛下。ではこのスピキ及び将軍一同、勝利へ邁進して参ります」


 「えぇ、全てはマレ・ノストルムの為に」


 作戦会議とは名ばかりな承認儀式を終え、私は寝室に向かった。

 蠍の宮殿の寝室、かつてアレクサンドル大王が眠った場所。ふかふかのベットと布団にくるまって、目を瞑る。

 このベット、まぁ本物はもう壊れてしまっただろうが、ともかくアレクサンドル大王はここで寝ていた。そして死んだ。最後の最後、史上最強の者がこの国の王様って事でいいよな?って言って死んでった。そのせいで彼の築き上げた王国は見事にバラバラになった。

 彼はバラバラになった自分の偉大なる国を見なかった。でも彼が自分の生涯を賭けて築いた大国が目の前で砕け散る様を見たらどう思うんだろうか。

 我が生涯は無意味だったと嘆くのか、それともこれも結果だと受け取れるのか、あるいは自分の後継者たろうとする者が争う様を見てゲラゲラと笑うのか。


 「私だったら……」


 私は皇帝だ。在位は短いけれど、それでもこの帝国に血を注いだ。だからだろう、私にとってこの帝国は私の肉体そのもののように感じる。故に私は多分、アレクサンドル大王の立場だったら耐えられないかもしれない。自分の国がバラバラに砕けてしまうのはとても耐えられないだろう。

 でも現実はどうだろうか、飢饉に反乱に、もう帝国は終わってもおかしくないし、何よりだ。私の知る世界のこの国に似た帝国は二つに分かれて滅んだじゃないか。

 だから私は、覚悟しなくちゃならないのかもしれない。この帝国が帝国ではなくなってしまう未来を。

 でもそれとは別に、この帝国には滅んでほしくないな、たとえ私という存在が、皇帝ヘリオースが死んでしまうとしても。

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