最悪の暗君か、稀代の名君か
「どうしたらいいんだよ!」
執務室で軍部からの報告書を読む。
報告によると昨日の昼、ちょうど政務院議会をしていた時間にポンペイウス=エンデラ山が破局噴火を引き起こした。ステラ・ガモフ星教会の予測によると巻き上げられた火山灰等が太陽光を遮り寒冷化が訪れると。そしてこれが少なくとも2年、長くて10年程続く事になり、餓死者の数は計り知れない。
まさに厄災である。
「取り敢えず議会を招集しましょう、今後の方針を会議しないと」
「わかってる!特別議会を招集するよ、護民院の審議なんて待ってられない」
第二次奴隷戦争の時に前例を作っておいて良かった。だって寒冷化による長期的な不作とハンニヴァルカの襲来なんて重なってしまう状況では緩慢な対応なんて取れないし、何より命を選別しなければならない状況なんだ、護民院に邪魔はさせない。それが彼らの仕事だから仕方ないけれど。
「先に言っておくよ、ラスアジィンニコフ。問題解決のためには超法規的で非人道的な方法取らなくちゃならないかもしれない。その時は、さ」
私の中の私は今のセリフにドン引きするだろうね。でも仕方ない、私は皇帝なんだ。名前を歴史に残す、その以前に私は私に与えられた役割を遂行しなければならない。
「えぇ、その時は」
翌日、私たちは開かれた第2回政務院特別議会に出席する。議会の様子はもはや大混乱であり、皆これから起こる悲劇という物を正確に把握しているのだ。だから、私が象徴として、国家の長たるものとしてここで纏め役にならなくてはいけない。政務院を一つにするんだ。
「静粛に。諸君、第2回政務院特別議会は本日招集されました。特別議会ですので前回同様ここでの決定は皇帝大権に基づき保障されています」
口上なんてやっていられるか、そういう空気を見せないと皇帝は事態を把握してないのではなんて言われてしまう。だから短縮だ。
「諸君もご存知の通り、この度の破局噴火は大厄災であります。必ず大規模な餓死者が発生しますし、戦乱は避けられない。故に私たちは迅速でかつ正確な判断によって最悪を悪に変えなければならないのです」
「では軍部代表、平民代表、貴族代表、各々の代表者の意見を聴取しその後擦り合わせ、その結果を審議します。これに賛成のものはご起立ください」
そうするしかない、皆それを理解しているので反対する人は少なかった。平民議員を除いて。
「では早速、軍部代表ブルース・タヌキウス氏から意見を聴取致します、お願いします」
彼はいつもと変わらず勇敢だ。多分、これ以上の厄災が降りかかっても彼を絶望させる事は出来ないだろう。彼はエネルギッシュな若い力を持っているから、たとえどんなに絶望的な事態が紙の上に並んでいても、己の身体に痛みとして事態が刻まれない限り絶望はしないのだ。
「軍部としては戦時徴収法の布告を要求する。餓死しろという命令がどれほど難しい事か、皆様もお分かりだろう。以上だ。」
要するにこうでいる。
餓死は戦士として不名誉な死に方だ。だから住民から食糧を強制的に徴収させる法律を使って食糧を軍に渡そう。
正直私もこれには賛成だ。だって死ねって命令が遂行できる人でも餓死しろって命令の遂行は難しいからね。烏合の衆が蜂起するよりも武器と技術を持った軍が反乱してしまう方が怖いんだ。
「ありがとうございます、では貴族議員代表パトシキ・トカー氏お願いします」
パトシキ・トカーの立ち姿はまさしく為政者のものだった。
「軍に食糧を渡すなどあってはならない。何故なら軍の末端は荒くれ者や浮浪者であった物だからだ。そんな者達に節度ある食糧徴収が務まるとは思えない。よって貴族議員としては地方総督による節度ある食糧配給を望む」
貴族とは、徳と寛容さを持って人の上に立つ人だ。少なくとも、ノストルムの貴族はそう育てられる。私やユリアン、パトシキ、そしてここに居る貴族議員全員もそうである。
だから怖いんだ、私を含めて貴族という人は野蛮さとか粗暴さを知らないから、食糧配給上手くやれるビジョンが見えないんだ。
「不可能だ!お前ら飢えを知らないからそんなことを言える!」
ブルースは叫んだ。確かに正当な叫びかもしれないが、彼も彼で飢えを知っている訳ではない。
「静粛に。今争っても何にもなりません。進行させていただきます。パトシキ・トカー氏ありがとうございます、では次に平民議員代表ミュラ氏、お願いします」
護民院の決定を介さない政務院特別議会。そうなれば平民議員たる彼らが平民の護り手になるしかない。何故ならこの度の大不作で一番割を食うのは平民だしね。
「平民議員として、平民議員の護り手として、軍部の戦時徴収法の布告にも貴族議員の節度ある分配にも断固として反対する。貴方達は我々平民の事を大農園の奴隷と同じようなものと考えているだろうが、それは間違っている」
「私たちは奴隷のように貴方達に権利を売っている訳ではない。よって貴方達による選別で死ねと言われる筋合いは無いのだ」
軍部の意見と貴族の意見、平民の意見。これを擦り合わせる……無理じゃないか?だからどれかを無視しないとならないんだけれど。
まず軍部の意見を無視、これは無理だ。だってガイウス魔法法の廃止っていう名目、つまり軍拡って餌を撒いて下についてもらったんだから、食糧を渋るってのは軍縮路線と勘違いされかねないし、何より武器と技術を持った人が暴れるのは本当に辞めてほしい。
じゃあ貴族はってなると、これも無視できない。だって地方の政治は貴族を蔑ろにしたらこの後の審議で可決取れないし。
ならば、平民だ。申し訳ないけれど、力と技術を持った人が暴れるとか貴族の票を取れなくて何も決めれないとかよりは平民が飢えてしまうって方がマシだ。よくないけど、多分。
「では皇帝として提案させていただきます。戦時徴収法は布告するが、徴収は地方貴族の監視の下行われる事とする」
「あり得ない!!」
ミュラは叫んだ、そして席を立ち上がり、私に指を刺して罵声を浴びせた。
「皇帝は何も分かっていない!!所詮貴方は温室育ちの若造だ!」
普段なら不敬罪に処される所だが、私は彼の憤りを理解できるし、何より今は緊急時だ。そんな下らない事はさせない。
「もし!貴方や貴族、軍部が平民からの食糧を奪うような政策をすると言うのなら、我々平民議員は平民の護り手として議会を退場させていただく!」
議会の退場、それには確かに効果がある。何故ならこの議会は平民議員、貴族議員、軍部、皇帝で構成されており、そのうち一つでも欠けていたら議会として成り立たない、そう法律に書いてある。だから平民議員がここで全員辞めたら政務院議会は暫くの間開けない、新たな平民議員が選手されるまで。そしてその間、政務院議会の機能を護民会が持つことになるんだけど、護民会は平民中心でありそこで出す政策をしていたら私が軍部に首を飛ばされる。
「ではそうしましょう、一週間後再び政務院特別議会を招集します。その際に再び審議するので長期的な対策についての案を各派閥でご協議下さい。よって今から長期的な方針が決まった後に行われる予定でありました、短期的な、応急的な対策について審議致しましょう」
その後の審議で一先ず備蓄された食糧配給の一部を先んじて配布する事、コロッセオへのさらなる投資が決定された。つまり長期的かつ決定的な対策を決めるまでパンとサーカスで民衆の目をこちらに向けないようにしようと決めたのだ。
議会、停止したいなぁ。恐ろしい事ながら、私はそう思ってしまった。
ネタバレあります
△△△△△
ここから物語が一気に暗くなるけどきちんとハッピーエンドで終わらせるので安心して下さい!!




