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 情報提供といっても、あれはまったくの見当違いかもしれないし、そんなのに一々対応している警察の人は大変だろう。

 薫子は警察へ電話しろと言うし、同席させろとまで言うけれど、神崎本人は迷っていた。

 お金にならないことは後回しだと、自身に言い訳して、自転車に乗った。


 せどり依頼のあったビニール人形を見つけて、メールで依頼者と値段交渉をしているとき、知らない番号から電話がかかってきた。 出てみると、警察からだったので、エッと声にして驚いた。

 警察官や市の職員を名乗る詐欺事件が、多発しているというニュースをみたばっかりだったので、最初からぞんざいな物言いで対応していたが、薫子の名前が出てきて、どうやら彼女が通報したことがわかった。

――なんて勝手なことをしやがるんだか。

 腹は立ったが、遅かれ早かれ、こうなるだろうとも思ったので、まったく関係ないかもしれないですよ、と念入りに前置きしてから、刑事の訪問を了承した。

 慌ただしく時間を指定された。 が、まだ時間はある。 それなら、と先ほどの値段交渉を再開する。


 やがて納得のいく値段に落ち着いたので、神崎はそれを購入して、リサイクルショップをあとにした。 この古いだけの人形にはもったいないほど、丁寧に梱包して、メールにある住所へ送れば、それでこの一件はお終いだ。

 丁寧かつ辛抱強い交渉の結果、約束していた時間ぎりぎりになっている。 警察も忙しいだろう、時間通りには来ないだろう、と思いつつ神崎は家路を急いだ。

 まだまだ暑い日が続いている。 蝉の声も元気だ。


 アパートへ到着してすると、一〇一号室の前に大柄な男が二人立っていた。 本当に来た。 そりゃ来るだろうけども……。

 遅くなったことを心にもなく詫びて、部屋に上がっていただいた。

 さて何から話していいのやらだし、のどがカラカラだ。

 制服警官なら毎日のように見かける。 しかし、刑事さんと話すのは初めてだった。 小説では職業柄、何事も疑ってかかる癖がついてしまって、目つきが鋭くなっているというのが定番だが、神崎のところへ訪ねてきた刑事さんは、二人とも柔和な顔つきだった。

 神崎が自分のついでに勧めた麦茶を、刑事さんは一旦断った。 だが、エアコンの冷房が効いてくるころには 「おいしい」 と正直な感想を述べている。

 カウチソファに並ぶ刑事さんへ

「俺が見たことは、これにまとめてあります」

 と言って、れいの尾行記録をテーブルに置いた。 さぁ驚け、と思う一方で、二人で来るならもう一部、作っておいてもよかったかと思った。

 刑事はポカンとした表情でそれを見下ろし、タイトルを見て、中身を見て、表情を険しくした。

「なんでこんなものを……」

 そう言いたくなるのも、わからなくはない。 どうやら補足説明が必要なようだ。


 どこら辺から話そうかと思案しなくても、刑事さんのほうから質問攻めにされた。 根掘り葉掘り尋ねてくるので、神崎は自分が疑われているような気になってきた。

「タイトルにもあるように、それは八月三日のことなんですが……」

 殺された日が三日なのか、という意味を込めて言ったつもりだが、刑事さんから明確な答えはなかった。

「えぇ、それは昼間の画像ですよ。 画像はネットから拾ったものもありますが、一旦眠って、その日の日中に、デジカメで押さえたものがほとんどです」

 刑事さんたちは、そこでも感心しているのか、バカにしているのか判然としない表情をした。

 おそらく死亡推定時刻がまだ出ていないのだろう、と推察した。 三日に起こっていたなら、まさにドンピシャリで、もっと驚いた顔をしてくれてもいいはずだ。

 片方がメモを取る様子をみて 「それは持っていってもらっても、かまいません」 と言った。 返さなくていい、とも。

 原本がノートPCに保存してあるから、というより記録簿として体裁を整え、薫子から小気味よくツッコまれた時点で、目的は達成されていたからだ。


 なぜ尾行しようと思ったのか、という問いに答えたのは、三度目になった。 あまりに神崎本人のことを聞きたがるので、いい加減帰れよ、と思うようになってくる。

「それがお役に立ったのなら、いいんですけどね」

 と神崎が不機嫌そうに言うと、主に聞き役をしていた方が、

「大変貴重な情報を、ありがとうございます」 と早口に言って、記録簿を鞄へしまった。

 と、それで天井や壁へ、次々と視線を向けている。 なかなか立ち上がろうとしないのだ。

「コーヒーでもどうですか?」

 そう聞くと、刑事さんは顔の前で手を振って、やっと立ち上がった。


 玄関まで見送って、さようなら。 ドアスコープをのぞいて、さっさと帰ってくれるか、と外を確かめた。

 刑事さんたちに、コーヒーでもと聞いたのは、自分が飲みたくなったからだ。

 客に出したコップを洗って片し、いつものマグカップにインスタントの粉を入れたとき、また呼鈴が鳴った。

 忘れ物でもしたか、と居間のテーブルへ視線をやった。

 カギをまだかけていなかったので、スイッとそのままドアを開くと、絵梨子さんが立っていた。

「探さん、さっきは洗濯機ありがとう。 ちゃんと洗濯できたわよ」

 そりゃそうだろう。 ……で、用はそれじゃないだろう。

「あ、コーヒー? 私も飲みたいかな」

――部屋に上がっていくつもり満々じゃないか。





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