表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/44

 7


 家電量販店の三階へ上がっていく。

 エアコンが効きにくい神崎の軽バンと、リサイクルセンターでの労働を経ると、店内は別世界のように涼しい。


 エスカレーターを使わず、階段を選択した絵梨子さんに、神崎は付き合った。 それでも汗が引いていくのがわかる。 ただ、体は(だる)いままだ。

 洗濯機のコーナーはフロアーの奥のほうにある。

 わき目も振らずに、スタスタと向かっていく絵梨子さんは凛々しい。 彼女を親父に紹介されたときに抱いた感想そのままに。

 細身で猫背気味の神崎は、絵梨子に連れられるようにして歩いていた。 自動巻き戻し式の犬用リードが見えてきそうだ。

 目的の場所に到着するなり、並べられた洗濯機を、よくよく吟味するように見回す絵梨子。 そうしてから、ようやく神崎を振りかえった。 さて、とも、う~んとも言わない。 彼女はニヤッと笑んだだけだった。


 絵梨子が手振りでシミュレーションし出した。 その手の動きは、斜めドラム式をねらっているようだ……。

「同じ場所に設置するんでしょ。 じゃぁ、サイズは限られてくるよね」

 あの家は広い。 目の前にあるどの洗濯機も置くことができるだろう。 だが、絵梨子は持ち帰るつもりでいるのだ。 なるべくなら、追加工事っぽい仕事はしたくないし、軽い製品が好ましい。

 並ぶ洗濯機の間をじっくりと見て回った。 ふと親父の意向は? と思って、神崎はすぐに打ち消した。 あの人は家事の一切をしないのだ。


 そこへ店員さんがやって来た。 やたらとニコニコしていた。

 参考までに、神崎は写メっておいた、旧の洗濯機を見せて型番を告げた。

「それじゃ、ゆっくりと選んでてよ」

 と絵梨子さんへ片手を振った。 彼女が選んでいる間に、店内を見て回るつもりだ。 ……だったが、背後で絵梨子さんは 「これにします」 と店員に告げていた。

 即決もまた歓迎すべきことながら、神崎はうまく説明できないズレのような感覚をおぼえた。

 振り返ったところに彼女の笑顔があった。 「探さん、コレ載せられるわよねえ?」 と言う。

 うん、と返事をして、営業スマイルを絶やさない店員に追加注文する。 排水と水栓の先っぽだけは、同時に変更しておいたほうがいい。


 お客様カウンターで、絵梨子さんがいろいろ書かされているとき、神崎はパソコン関連のコーナーへ向かった。 その途中、陳列するテレビから照らされた。 色彩をアピールするデモ画面はどれも目に痛かった。

 と、普通に番組を映しているテレビもあって、そこに映るアパートに目がいった。 テレビからは音声が出ていなかったし、画面がすぐに切り替わったので、よくわからなかった。 画面の下に出ていたテロップに、殺人と断定して捜査、という文字があったので、立ち止まって今はCMが映るテレビへ向き直った。

 CMあけに続きをやるだろうか? 心拍数があがっていくのを感じていた。 他にもテレビをみている客が数名いるが、睨むようにしているのは神崎だけだった。


 三本目のCMまで待たされているうちに、たぶん見間違いだろうと体の向きを変えた。 そこでようやく胸に回した肩掛けポーチの中で、スマホが鳴っていることに気づいた。

 取り出してみると、薫子からだ。 昼休みか……。

「ニュース見た?」 というのが彼女の第一声だった。

 頭に今しがたのテレビ画面を思い浮かべる。

「いいや。 買い物中なんだよ。 テレビが、なに?」

(さぐる)()の近所で、殺人事件だって。 ほら、あれって、あれじゃないの?」 と薫子は興奮気味だ。

「あれあれ言われても、そのニュース見てないからわかんねぇって。 うちの近所って、へぇマジで?」

 言いながら、さらに胸の鼓動を感じていた。

「もぉ! ネットニュースで調べたほうがいいって」

 努めて平静を装った。  「ああ、用事が終わったらね」

 電話を切ってから、さっそく事件を検索してみた。

「探さん、お待たせー。 店の人が車まで運んでくれるんですってよ」

 え? あぁそう……やはり彼女とは、何かがズレているような気がした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ