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家電量販店の三階へ上がっていく。
エアコンが効きにくい神崎の軽バンと、リサイクルセンターでの労働を経ると、店内は別世界のように涼しい。
エスカレーターを使わず、階段を選択した絵梨子さんに、神崎は付き合った。 それでも汗が引いていくのがわかる。 ただ、体は怠いままだ。
洗濯機のコーナーはフロアーの奥のほうにある。
わき目も振らずに、スタスタと向かっていく絵梨子さんは凛々しい。 彼女を親父に紹介されたときに抱いた感想そのままに。
細身で猫背気味の神崎は、絵梨子に連れられるようにして歩いていた。 自動巻き戻し式の犬用リードが見えてきそうだ。
目的の場所に到着するなり、並べられた洗濯機を、よくよく吟味するように見回す絵梨子。 そうしてから、ようやく神崎を振りかえった。 さて、とも、う~んとも言わない。 彼女はニヤッと笑んだだけだった。
絵梨子が手振りでシミュレーションし出した。 その手の動きは、斜めドラム式をねらっているようだ……。
「同じ場所に設置するんでしょ。 じゃぁ、サイズは限られてくるよね」
あの家は広い。 目の前にあるどの洗濯機も置くことができるだろう。 だが、絵梨子は持ち帰るつもりでいるのだ。 なるべくなら、追加工事っぽい仕事はしたくないし、軽い製品が好ましい。
並ぶ洗濯機の間をじっくりと見て回った。 ふと親父の意向は? と思って、神崎はすぐに打ち消した。 あの人は家事の一切をしないのだ。
そこへ店員さんがやって来た。 やたらとニコニコしていた。
参考までに、神崎は写メっておいた、旧の洗濯機を見せて型番を告げた。
「それじゃ、ゆっくりと選んでてよ」
と絵梨子さんへ片手を振った。 彼女が選んでいる間に、店内を見て回るつもりだ。 ……だったが、背後で絵梨子さんは 「これにします」 と店員に告げていた。
即決もまた歓迎すべきことながら、神崎はうまく説明できないズレのような感覚をおぼえた。
振り返ったところに彼女の笑顔があった。 「探さん、コレ載せられるわよねえ?」 と言う。
うん、と返事をして、営業スマイルを絶やさない店員に追加注文する。 排水と水栓の先っぽだけは、同時に変更しておいたほうがいい。
お客様カウンターで、絵梨子さんがいろいろ書かされているとき、神崎はパソコン関連のコーナーへ向かった。 その途中、陳列するテレビから照らされた。 色彩をアピールするデモ画面はどれも目に痛かった。
と、普通に番組を映しているテレビもあって、そこに映るアパートに目がいった。 テレビからは音声が出ていなかったし、画面がすぐに切り替わったので、よくわからなかった。 画面の下に出ていたテロップに、殺人と断定して捜査、という文字があったので、立ち止まって今はCMが映るテレビへ向き直った。
CMあけに続きをやるだろうか? 心拍数があがっていくのを感じていた。 他にもテレビをみている客が数名いるが、睨むようにしているのは神崎だけだった。
三本目のCMまで待たされているうちに、たぶん見間違いだろうと体の向きを変えた。 そこでようやく胸に回した肩掛けポーチの中で、スマホが鳴っていることに気づいた。
取り出してみると、薫子からだ。 昼休みか……。
「ニュース見た?」 というのが彼女の第一声だった。
頭に今しがたのテレビ画面を思い浮かべる。
「いいや。 買い物中なんだよ。 テレビが、なに?」
「探ん家の近所で、殺人事件だって。 ほら、あれって、あれじゃないの?」 と薫子は興奮気味だ。
「あれあれ言われても、そのニュース見てないからわかんねぇって。 うちの近所って、へぇマジで?」
言いながら、さらに胸の鼓動を感じていた。
「もぉ! ネットニュースで調べたほうがいいって」
努めて平静を装った。 「ああ、用事が終わったらね」
電話を切ってから、さっそく事件を検索してみた。
「探さん、お待たせー。 店の人が車まで運んでくれるんですってよ」
え? あぁそう……やはり彼女とは、何かがズレているような気がした。




