6
呼び鈴が鳴った。
寝起きの神崎が、ベッドの縁に腰かけて、ボケーッとしているときだった。
宅配便かと思い、立っていって返事をした。
「探さん、ちょっとぉ」 という声は、継母の絵梨子さんだ。
母屋にはマスターキーがあるので、それを使えば、いつでも勝手に入ることは可能。 しかし、彼女は決してそれをしなかった。 神崎の知るかぎりでは、だが。
神崎は返事をして玄関ドアを大きく開いてから、自身は洗面所へ行った。
洗顔して出てくると、継母はエプロンの前ポケットに両手を入れて、カウチソファの横に立っていた。 掃き出し窓のレースのカーテンが、風で膨らむ。 網戸になっていた。 入ってきたときに濃厚な空気を感じたか、で換気したくなったのだろう。
「寝てたの?」
「ちょっと前まではね」
窓際に立ち、少し屈んで空を見た。 今日も暑くなりそうだった。
ふ~ん、と息をつきながら、彼女は部屋内を見渡している。 けっこう整理整頓がなされているので、感心しているようだ。
神崎が振りかえった。 何の用? と言いかけたとき、彼女は神崎を見上げて言った。
「洗濯機の調子が悪いのよ」
スマホの機種変更の際、相談に乗ったことを思い出した。 PCなどが扱えるからといって、エアコンや洗濯機に詳しいわけではない。
「どうせ俺がみたって、わかんないけど」
彼女は一つうなずいて、唇の端で微笑む。 「買い替えるって決めたの」
そう。 ……で、それが何だ?
「今から予定がなければでいいんだけど、カマチ電気まで一緒に行ってくれない?」
それは、この地区の人が贔屓にしている家電量販店だ。
低血圧でもない神崎が、先ほどまでボーッとしていたのは、今日は何をしようかと考えていたからだった。 つまり予定はない。
継母と二人で、というところに若干引っかかっているくらいで、電気屋とホームセンターは好きだ。
それで、よくよく聞いてみると――
カマチ電気の一階にあるリサイクルセンターへ、壊れた洗濯機を店に持ち込めば、千円の商品券がもらえるとのこと。 新しい洗濯機をお持ち帰りで、さらに千円引き。 運搬には神崎の軽バンが必要で、絵梨子さん個人の車では載せられない、と。
そういうことか。 やれやれだ……。
「わかったよ」 と神崎は了承した。
「うん、行こう」
絵梨子さんは無邪気にガッツポーズで喜んだ。
神崎は、親父が二十八歳のときの子だ。 実母も親父と同い年だった。 継母の絵梨子は現在四十歳。 親父よりも、神崎のほうに近いのだ。
神崎は母屋横のホーム物置へ寄って、台車と簡単な工具を出してきた。 母屋へはよく使う勝手口から入った。
この家は増築リホームを繰り返したせいで、異様な形状をしている。 一番古い部分は、なんと築百六十年物である。 今では大黒柱の役を担っていない太い柱が残っていて、そこから横へ増殖したように長めの家だった。 家の中にアップダウンする箇所があり、土壁の部分もあった。
神崎は頭の中でドゥリャーと叫び、洗濯機を持ち上げた。 排水が完全ではなく、持ち上げたしりから、靴下に水が染んだ。
押したり引いたりと工夫して運んでいる途中、軽く文句を言ってやろうと思って振り返ると、絵梨子さんは雑巾で床を押さえていた。 運搬経路に点々と水が垂れていた。
このままでは自分の車が臭くなってしまいそうだ。 今さらながら、洗濯機の排水口をラップで巻いて、輪ゴムでとめた。 何も言わずに、もう一度腕に力を込めた。 次は玄関までノンストップで運ぶつもりだ。
カーペット敷きの箇所では、台車が抵抗しだした。 ノンストップとか全然無理だった。 途端に汗が噴き出した。
そうした苦労があって、やっとのことで軽バンに積むと、ブヘーッと息をはいた。
「ち、ちょっと着替えてくる」
筋繊維の一本一本に、運動不足が染みわたっていくようだった。
カウチ電気までは車で十五分。 スムーズに国道へ出られたらの話だ。




